敦「お、おはようございます…」
起きて血の処理をしていたら出勤時間をとうに過ぎてしまった。
ガチャりと控えめにドアを開けた。
国「だざい”いいいいい!!!!!」
扉を開けると何故かこちら側に罵声が飛んでくる。その声が頭に響いて思わずうわっと体を震わせると、国木田さんが逆に驚いていた。
国「…って、敦か、」
国「今日は随分と遅かったな」
国「お前が遅刻とは珍しい、なにかあったのか」
滅多に遅刻をしない僕に国木田さんが驚いて問いかけてくる。必死に言い訳を探すも、余り良い言い訳も思いつかず、
ね、寝坊しました…
とふの抜けた声が小さく告げた。
怒られるかと思いきや、何故か国木田さんは僕の頭をくしゃりと撫でて、余り無理はするな、と優しく声をかけてくれたのでびっくりだ。
そんなに疲れているように見えたのかな。
何はともあれ、怒られなくて良かった。
乱「ねぇ敦ぃ、昨日怪我でもした?ものすーっごく血の匂いがするんだけど」
敦「あははー、昨日任務でちょっと…。まだ服に匂いがついてるのかも知れません」
乱歩さんの問いかけにびくりと肩を震わせてから答えた。スイッチの入ってない乱歩さんだったのでそんな返事でも、特に怪しむことなく席にもたれかかった。
…昨日の書類をまとめないと。
カタカタとまだ慣れない手つきでパソコンを操作する。手がいつも以上におぼつかないのは、貧血のせいだと思う。
特に気にすることなく作業を進めた。
50分後くらいに勢いよく扉が空いたので何事かと思ったけれど、直ぐにお馴染みの人物が覗いたので特に気にすることなく、いつもの事だ、と作業を続けた。
頭の上に大きなたんこぶを付けた太宰さんが渋々デスクについたのは言うまでもない。
敦「おはようございます、太宰さん」
太「おはよう敦くーん、所でなんだけどさ、敦くんから血の匂いがするのは何でかな?」
流石は太宰さん、乱歩さんと同じ事を言っている。
敦「昨日任務でヘマしちゃって…、服にまだ匂いがついてるのかも知れません」
2度目のセリフだったので、上手い嘘をつく事が出来た。
太宰さんの目を誤魔化せていると良いんだけど。
太「そーゆーことね」
何に納得したのかは僕の頭じゃ理解できないから、バレてませんようにと心の中で願った。
無事探偵社での仕事を終え帰宅する。
部屋の中はもっと濃い血の匂いがした。
敦「酷い匂い…。換気した方がいいかな」
(今更ですが、鏡花ちゃんとは別々の部屋、という設定…です!すみません!)
窓のドアを開けて換気する。
仕事着を脱いで部屋着に着替えた。
(想像の中で好きな服を着せてくだせぇ)
ポイと洗濯機の中に服を入れて昨日使った包丁を綺麗に洗った。
明日は匂いを完全に落として行かないと流石に怪しまれる。
部屋の匂いを消してから、お風呂に入って自身に染み付いた匂いを消した。どうしてこの傷は消えないんだろうと、お腹に2本の線をなぞる。
きっとこれはもう傷ではなく、跡だから、体に染み付いて離れないんだろう。
敦「昨日の傷みたいに消えてしまえば楽なのにな」
これを見る度あの日々を思い出してしまうのだから最悪な気分にしかならない。
其れもあの人の目論見どうりだというのなら、酷い話だ。
屹度それも僕の為だったのだろうけど。
あーーー駄目駄目!、気分が落ち込んでしまったらまた“あれ”をしてしまう。
自身のほっぺを軽くつねって早くお風呂を出た。
そしてまた、夜がくる。
何とも言えない虚無感が身体中を襲ってバクバクと鳴る心臓が僕を寝させてくれない。
眠れない夜は決まってあの頃を思い出すから嫌なんだ。
敦「…、誰か…助けてよ」
そう呟いても、誰も助けてくれることはない。
そんな時に思いつく最悪な対処法は、頭から離れずに僕の歩を進めた。昨日と同じように刃物を腕に振り下ろして前よりも多く出る血に浸って眠りについた。
気絶するような睡眠を取って今日もまた目覚めた。
敦「おはよう、ございます」
今日は国木田さんの罵声も飛んでくることはなく、太宰さんが先に着くほど遅刻してしまった僕を心配していた。
国「敦、顔色が悪いけど大丈夫なのか」
敦「遅れてしまってすみません…大丈夫です」
太「絶対大丈夫じゃないでしょ」
谷「今日はお休みしたら…?」
皆が優しく僕に言葉を掛けてくれるから、なんだか嬉しくて、其れで持って苦しくて、訳が分からなくなる。
敦「ほんと、僕はどうしちゃったんだろ」
血の回らない頭が必死に大丈夫と言えと命令を出すけれど、それよりも大丈夫じゃないと言う体の警報が鳴り止まない。
太「敦くん…?」
呆然と立ち尽くす僕を前に皆が心配して声を掛けてくれる、やっと出た言葉は、
敦「大丈夫です」
ただ其れだけだった。
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