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『 大丈夫です。』
なんて、そんな言葉が出たのは、孤児院にいた頃、体がどんなに悲鳴をあげても、避けられない苦しみを味わってきたからなんだろう。
僕の体はダメでも、脳みそはまだ大丈夫と言い張るのだ。
…僕は大丈夫です。
本当に大丈夫ですから。
皆心配した顔で僕を覗かないで欲しい。
敦「遅れてしまってすみません、僕、仕事に戻るので」
そう言って席につこうとした。
でも、乱歩さんが手を広げてそこに座らせてくれない。
敦「乱歩さん、通してください」
乱「だめだめ。本日、敦はお休みでーす。」
太「乱歩さんの言う通り、休養をとった方がいいよ」
敦「でも…」
国「お前に決定権はない。今日は休め」
みんなの優しい言葉に胸がきゅっと苦しくなってしまう。
でも今日家に帰ってしまえば昼間から嫌な事を思い出してしまうような気がして、どうしても探偵社には居たいのだ。
敦「分かりましたよ、休みます…。けど、此処に居てもいいですか…?」
皆が少し驚いた顔をしてから、全然いいよと、優しく笑ってくれる。
安心してほっと息をついてから、探偵社のソファに横にならせてもらった。
敦「…夜も此処で寝られたらいいのに…。」
ボソッと呟いて目を閉じた。
…眠れると思ったのに。やっぱり此処でも寝付けないな。
探偵社は、よりによって忙しい日で、部屋には現在、誰1人居なかった。
部屋じゃないだけましだけど、それでも1人になると思い出してしまうな。
…早く誰か帰ってこないかな。
敦「…太宰さん…」
無意識に出した言葉にはっと驚く。普段仕事をサボってばかりの上司の名前を出してしまったのは、屹度、あの時餓死寸前の僕を助けてくれた恩人だからだろう。
今回も屹度助けてくれる、なんて思ってしまったんだ。
馬鹿だな。僕は。
僕が過去の呪縛から開放されることなんてないのに。
眠れない目擦って探偵社員の皆の帰りを待った。
太「はぁ、国木田くんから逃げるのに手こずってしまったよ〜、」
太宰さんの声がする。一緒に任務に向かったはずの国木田さんの声が聞こえないのと、さっきの発言からして、恐らくサボって帰ってきたのだろう。
太「敦く〜ん、起きてる?(小声」
敦「…起きてます」
太「寝れなかったんでしょ」
敦「まぁ、はい」
僕が横になっているソファにぽすんと座って、僕のことをふわりと見下ろした。
不覚にも、その美貌のせいか、ドキッとしてしまう。
太「最近、何かあったのかい?」
敦「……いえ、なにも」
そう言うと呆れたようにため息をついた太宰さんが、横になって顔の見えない僕に顔を近づけて“言って”と促してくる。
…真面目な顔はかっこいいんだなと、そんな呑気な事を考えると同時に、またまた不覚にも顔が赤くなってしまう。
敦「ち、近いです」
太「言わないとやめないから」
敦「…何を言われても話しませんから」
そうだ…、こんなこと何があっても言えない
敦「どいてください、このままだとちゅーしちゃいますよ」
太「顔が近づいただけで真っ赤な敦くんがそんなこと出来るとは思わないけどね。ま、私は大歓迎だけど?」
敦「…は、はい?」
一瞬その言葉のせいで頭が静止したけれど、数秒後にはいつもの冗談だと気づいて上司の体をぐっと押してからトイレに行く振りをした。
敦(本当はちょっと抜け出したかっただけだけど、)
もう定時だし、探偵社の人が一人でも帰ってきたら、僕は帰ろう。
乱「たっだいま〜!あーあ、今回の事件も全く簡単だったなぁ、面白そうな殺人事件とかないの〜?」
敦「乱歩さんお疲れ様です。」
乱「ほんと疲れたー」
任務に同行した賢治くんは、乱歩さんにお使いでも頼まれて居るのだろうか、まだ帰ってきてない。
敦「…僕、もう帰りますね、探偵社の皆さんに伝えておいてくれませんか?」
乱「…いいけど、大丈夫なの?敦」
敦「1日休んだので大丈夫ですよ!疲れが溜まっちゃったんですかね…」
我ながら上手い嘘をつけたと思う。
そのまま探偵社を後にして家に帰った。