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「そこのお兄さん、何か辛いことでもありましたか?僕でよろしければ、向こうでお話聞きますよ」
翠色の瞳を向け、項垂れる男を前に優雅に微笑んだ。
この街の中では身なりの良い風貌の、藤色の髪をした男は「トウヤ」と名乗り、先程声を掛けた男を自分が腰掛けているソファの反対側へと座らせた。
トウヤはパチンと指を鳴らし、部下らしき人物を呼ぶ。静かなこの部屋では、その音がやけに大きく響いた。
トウヤはその部下らしき人物に指示を出して、小さな箱を持ってこさせると、男に差し出した。
「少しお試しになられませんか?うちで調合している特別な薬です。お兄さんの辛いこと、全て忘れさせてくれますよ」
男は箱の中にある飴玉に目を向け、ゴクリと唾を飲み込む。小さく震える手で飴玉が入っている箱を掴もうとすると、ハッと目を見開きトウヤを見た。
「……あぁ、お代ですか?お気になさらなくて大丈夫ですよ。サービスです」
トウヤは男の心を見透かしたようにそう言い、ニコリと微笑んだ。男はその笑みを見て安心したのか、箱を手に取った。
「中身はどうぞお一人で」
「また来てくださったんですね。お気に召したようで何よりです」
翌日トウヤのもとに来た男は、目を血走らせ、低く唸り声のようなものをあげていた。明らかに様子がおかしいその男は、トウヤを見上げて薬を寄越せと叫んだ。
「ええ、薬ですね。すぐにお持ちします」
男とは正反対の穏やかな微笑を浮かべ対応するが、その態度が気に入らないのか、男は早くしろと怒鳴る。
「どうぞ。お兄さんの辛いこと、全て忘れさせてくれるはずですよ」
男はトウヤに言い切る暇も与えず、箱に収めてある飴玉を掴み取って、口の中でガリガリと噛み砕いた。
「あぁ、余程気に入っていただけたんですね」
飴玉を全て噛み砕くと、男は何か呆けたような、恍惚とした表情を浮かべる。
「では、代金はこのくらいになります」
電卓を向け、出会ったときと同じく優雅に微笑んでいるトウヤを前に、男は呆然とする。
「どうしました?
もしかして…… 払えないなんて、言いませんよね?」
男は獣のような叫び声を上げながら部屋の外へ出ようとするが、箱を持ってきた部下らしき者に腹部を殴られ倒れ込む。
「どうやら払えないようですね…」
「では、そんなあなたにぴったりの仕事があります。こちらへどうぞ」
トウヤは今までと同じようで異なる、妖しい笑みを浮かべ、果ての見えない闇の中へと手招いた。