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授業開始の少し前、ガラッと教室後ろのドアが勢い良く開かれる。
現れたのは金色のウェーブセンターパートウルフヘアで、ピアスを付け、服装も上が白いパーカーに制服のズボンをダボッとさせて穿いている、見るからに柄が悪そうな出で立ちの男子生徒だった。
クラスメイトたちは一瞬話を止めてそちらへ視線を向けるも、男子生徒に睨まれた事ですぐに逸らして話を再開させる。
そんな様子を鬱陶しそうに見つめつつ、金髪の彼は自分の席でもある恵那の隣までやって来ると、窓の外を眺めたままの見た事の無い彼女の存在が気になったらしく、声は掛けないものの何度かチラチラと彼女の方へ視線を向けていた。
授業開始のチャイムが鳴り響き、周りの声を遮断していた恵那がふと隣に視線を向けると、
「あ……」
ちょうど恵那に視線を移していた金髪の彼と目が合い、若干気まずい空気が流れていく。
「……えっと、初めまして、海老原 恵那です。今日からこのクラスに転校して来たの」
「……へぇ。海老原サンね。俺は江橋 斗和。ま、俺そんなに授業受けねぇから会う事少ねぇと思うけど、よろしく」
隣の席だしと、ひとまず名を名乗った恵那は、斗和の態度に心底驚いていた。
(……この人、私の事、知らないの?)
自惚れてる訳ではないけれど、恵那は日本のみならず海外でもそれなりに名が知れ渡っているアイドルだから、そんな自分を前にしても微動だにしない斗和の反応が珍しかったのだ。
(きっと、芸能人とかアイドルなんて興味無いのね……でも、良かった。そういう人が隣の席で)
これ以上好奇の目に晒されたく無かった恵那は、隣が斗和のような芸能人に興味の無い人間で良かったと安堵しつつ、一限目の授業の準備を始める。
そんな恵那の横で斗和は、
(この女……どこかで見たような?)
芸能人とかそういうチャラチャラしたものに疎い斗和は恵那が誰なのか良く分かっておらず、どこかで見た事があると悩みながらもすぐにそれを止めると、一限目の教科の教科書だけを出して机に突っ伏し、早々に寝る体勢に入っていた。
寝ようと机に突っ伏した斗和はふと、何かを思い出したかのように顔を上げて恵那の方を振り向いた。
「お前、教科書とか揃ってんの?」
転校して来たばかりと言っていたからなのか、教科書が揃っているのか気になったらしく、それを確認する。
「え? あ、ううん、まだ。今週中には用意出来るって言われたけど……」という恵那の返答を聞いた斗和は、
「そ。じゃあこれ使えよ。俺、どうせ寝るから使わねぇし」
「え? で、でも……」
「いいって。それじゃ、おやすみ」
「あ……ありがと……」
自分の教科書を使うように言って再び机に突っ伏した斗和は余程眠かったのか、担当の教師がやって来るまでのものの数分で眠ってしまっていた。
(江橋くんって、見かけによらず、親切だな)
見た目から明らかに彼を不良だと思っていた恵那は斗和の優しさに胸を打たれつつ、借りた教科書と真新しいノートを広げて一限目の数学の授業を受けていった。
それから二限、三限と都度その教科の教科書を恵那に貸した斗和。
けれど、四限目が始まる間際に彼のスマホに何やらメッセージが届いたらしく、それを目にするなり血相を変えた斗和。
「海老原、教科書、全部机の中に入ってるから、必要なの適当に取って使ってくれ」
「え? あの、江橋くん?」
「俺、用が出来たから帰る。じゃあな」
恵那に必要な教科書を好きに使っていいと伝えた斗和は用事が出来たからと慌てて教室を出て行ってしまう。
(学生が授業よりも大切な用って、何?)
何て思いながらも、彼に言われた通り次の時間で使う英語の教科書を借りた恵那は、慌てて出て行った斗和の事を気にしながら残りの授業を受けるのだった。