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「 ねぇ ──── ? 」
「 なぁに、ルミエール? 」
「 …どうか、陸には行かないでね 」
「 ?ぼく…アリエルと陸、いってるよ、? 」
「 ……秘密話を始めましょう。 」
「 …?うん、? 」
「 私はね、本当の陸を知ってるの。 」
何時しかの夢を見る。
何時までも覚めない様な、
覚めて欲しくない様な。
それでも世界と言うのは残酷だ。
嫌でも “ 明日 ” が来て、
嫌でも生きなくちゃいけなくて、
「 いつか、 ──── が “ 後悔 ” に呑まれた時、必ず叶う魔法を授けます。 」
たとえ1人が死のうとそれは変わらなくて、
たった1人の命じゃ世界は動かなくて。
「 まほう?わ、きれい…っ 」
目の前に広がる赤い、ほんのり光る粉に魅入る。
「 …どうか ──── に、今まで以上の幸福が訪れます様に ─── … 」
「 ッは、ッは、ッはッ… 」
嗚呼、またこの夢だ。
何時だろうか、僕が溺れて助けて貰ったあの日。
僕は自分が、世界が嫌いだった。
嫌でも、嫌でも生きなくちゃいけなくて、
弱音を吐く事も許されない世界で。
「 …ッ、ルミエールさん…ッ 」
初めてその名を呼んでくれたルミエールさん。
僕は今、幸福なんでしょうか。
幸福さえも分からないこの世界から、貴方が居なくなってしまえば僕は、
きっと幸福も知らずに生きるでしょう。
でも後悔は知っていました。
あの時の “ 魔法 ” が叶ってしまったから。
「 ( こんこんッ 」
「 …は~い、? 」
「 ( 海、行かない? ) 」
「 ……良いよ、行こう 」
上がらない口角を無理に上げてむやみに笑う。
アリエルのこの無邪気な手つきを感じると無性に腹が立つ。
きっと、きっと全部エリック王子に出会ったからだ。
こんな事可笑しいのに、腹が立つはず無いのに、何故か納得してしまう自分に1番腹が立つ。
「 ( ルミエールの事、好きなの? ) 」
「 げほッ、何急にッ、 」
「 ( 好きそうだったから… ) 」
「 好きじゃないよ、別に… 」
「 ( …リメンバーは人魚の事どう思う? ) 」
「 …優しくて綺麗で、世界一美しい人、かな 」
ふとアリエルとルミエールさんの事を思い浮かべる。
綺麗で、美しくて、優し過ぎて壊れてしまう彼女達を見ていると、何故か自分まで苦しくなる。
「 ( そう、リメンバーは私の友達に似てる ) 」
「 …なんて名前の子? 」
「 ( “ フランダー ” 。とっても優しくて可愛い子よ ) 」
「 ふーん…アリエルはやっぱりトリトン様似だね 」
「 ( そう?お母様似とはよく言われるけど ) 」
「 ( でもどうしてお父様の事…? ) 」
「 まーいいでしょ、ほら肌寒くなってきた。 」
「 帰ろ、アリエル 」
「 ( えぇ、? ) 」
多分アリエルは今、不思議そうに首を傾けて居るだろう。
嗚呼、似てるな。
恐いけど優し過ぎるトリトン様にも、
優し過ぎて “ 助けて貰う事 ” を知らないルミエールにも、
…僕にも。
そうだ、部屋に戻ったら久しぶりにあの日記でも読み返そうかな。
─── 「 ( おやすみ、リメンバー ) 」
「 おやすみアリエル、いい夢見てね 」
出ていったと同時にクローゼットの奥底に眠る日記を取り出す。
5センチ程の厚さのある本。何時かの誕生日、トリトン様に貰ったもの。
1ページ目をパラパラと開く。
” 恥の多い人生でした。 “
そんな題名から始まる僕の人生日記。
この日記はトリトン様から貰った。
大事にしないとな。
今日はアリエルが陸に連れて行ってくれた。
広くて、大きくて、綺麗で…
海とは全く違ったけど、好きになった。
いつか、陸で暮らせたらいいな。
1ページ目はそんな事を語っていた。
この陸がどんなに嫌いになるかも知らずに。
3時間程経っただろうか、最後のページに行き着く。
何時まで、皆が悲しむ姿を見ればいいの?
何時まで、僕は耐えればいいの?
何時まで、皆が死んでいく姿を見ればいいの…?
今日で74回目。
ねぇ、ルミエールさん。
おまじない、効きすぎちゃった。
そろそろ解いてよ…
皆々、死んじゃうんだから。
その内、僕も…
お願い、アリエル
そろそろ諦めて。
そろそろ、終わらせて ───────
それから先は文字が霞んで見えなかった。
嗚呼、僕も頑張ったな。
遂に明日は99回目の明日。
そろそろ終わるかな、なんて淡い期待を抱いて、何時もの様にアリエルの部屋の前まで行く。
「 ねぇ、アリエル。 」
「 そろそろ終わろうよ、 」
「 もう、君が ── 姿は見たくないんだ… 」
コメント
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世界って残酷だよね。人1人死んでも悲しむ人は世界の人口の1%にすぎないし、。人が死んだ瞬間世界のどこかで幸福を味わっている人が何万人もいる。だからこそ生き物は美しいんだけどね