この作品はいかがでしたか?
306
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『いよいよ冬も本番となってきました。体調には充分に気をつけてお過ごしください。』
アナウンサーが軽快な口調でそう告げる。
『続きましては、___』
不愉快な単語が聴こえる気がしたのでほとんど条件反射でラジオを切る。気づけば、自分の心臓は大きく波打ち、冷や汗をかいていた。
深呼吸して心を落ち着かせてから、コートを羽織り、1人で使うにしては長いマフラーを首に巻く。
__そういえば、マフラーの結び方もチェコが教えてくれたんだっけ。
そんなことを思い出しては虚しくなりながら、ドアの鍵を閉める。そこまで長く家を留守にするつもりはないが、物騒な世の中だ。念は入れておいて損はないだろう。
外に出てみれば、肌を裂くような寒さが襲ってきた。やはり防寒具を着て正解だったようだ。
独りぼっちの冬は身に染みる、と聞いたことがあったがそれは本当だったのかもしれない。
最近、チェコのことを考えてはどうしようもなくなる。
_ずっと信じてきた相棒に裏切られるというのは、どんな気持ちなのだろうか。
俺が独立を宣言したときのチェコは、とても驚いた顔をしていた。
目を見開いて、まるで「信じられない」とでも言うような___でもどこか穏やかさのある顔。
俺たちが一つになったその時から、いつか離れ離れになると気づいていたのかもしれない。
そもそも、チェコにとって「チェコスロバキア」は幸せだったのだろうか。本当は、俺と同じ国になどなりたくなかったのではないか。
チェコは__ボヘミアは、オーストリア=ハンガリーに憧れていて。
自分も仲間になりたいと願って。
それでも俺の我儘を受け入れてくれて。
もし、それがチェコの望んだ選択では無かったのなら。「妥協」であったならば…
_そんなことを考えても、もうどうにもならない。チェコはもういないのだ。
涼やかな秋風のように、どこかに過ぎ去ってしまった。
それでも、この世界の中にまだチェコがいるのなら。
いつかちゃんと謝りたい。裏切ってしまってごめんなさい、と。
気づけば、もう辺りはすっかり暗くなっていた。小さな茶色のクリスマスツリーと街灯が頼りなく光るだけだ。今涙を流したとしても、それに気付く者は誰一人いないだろう。
涙が冷えると寒くなるので、泣くのはやめておいた。
コメント
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すすっすろろrっバキアさん?!突然のシリアス&夫婦に驚きを隠せないんですけど... なんと文才...ノベルが上手すぎます。そしてタイトルのセンスぅ...良い供給をどうもありがとう