注意!
・パラ日帝(空)です!
・特攻表現有り。
・グロとかあるかもしれません。
・下手注意です。
地雷さんはご自衛ください。
では本編Go。
その人の最期の瞬間は、まるで花が散るように美しかった。
その人は突然、予告もなく僕の家にやってきた。
『こんにちはパラオ!君が陸の言ってた未来の大東亜共栄圏になる子だよね!』
『え、え!?だ、誰、ですか!?』
あんまりにもにこにこしながら家に入ってきた人。顔はナイチにこそ似ていたけれど、言動も服装もぜんぜん違う。そして何より、ナイチはこんなにニコニコしてない。
『あれ、僕の話って陸から聞いてない?』
『い、いえ、全然…初めて、会ったから…』
『そっか!なら自己紹介からだね!僕の名前は大日本帝国海軍航空隊って言って、陸…大日本帝国陸軍の弟にあたるんだ!気軽に空って呼んでいいよ〜!』
『そ、空さん……??』
成る程、弟だったんだ。なら、ナイチに似てるのも納得…かなぁ。
『…んで、僕は本土を離れてこっち、南の方に一旦配属になったからさ!ついでに陸お気に入りの子のことも見に来たってわけなの〜!うんうん、これは陸が可愛がるのもわかる!』
『わぷっ…!!』
空さんはそう言って笑顔で抱きついてきた。にこにことした笑顔に気を取られて忘れていたけど、この人も軍人なんだ。
大きな手、細身なのに鍛えられていることのわかる体幹の強さ。そして、空さんは笑っているけど…ナイチとおんなじ、どこか苦しそうな瞳。
(…どんな思いで、僕と話してるんだろ…)
いつ米軍が攻めてきてもおかしくない状況。戦争もきっと大詰めで、最近はナイチたちは全然勝ててないみたい。なのに、今笑って僕と接している空さんは…一体どんな思いでこの南の地に立ってるんだろう。
『…おーい、パラオ?どしたの、急に固まっちゃって…』
『…え、ぁ…う、ううん!!なんでもない、ごめんね空さん…!』
慌ててそう答えると、空さんは不思議そうな顔で首を傾げた。
『…?まぁ良いけど……
そうだ、パラオ。陸ね、ちょっと忙しくて…志那の方に行ってるんだ。…だから、その間こっちに配属された僕が君の面倒を見ることになってるの。少しの間、宜しくね』
『…!わかった!よろしくね、空さん!』
…紆余曲折はありつつも、いきなりそう宣告されて、僕は考える間もなくそんなことを口に出していた。
このとき、なんで僕は空さんがここに留まることを簡単に許してしまったのだろう。
もし、もしも、空さんと出会わなければ。
僕は、ナイチを失うのと同じぐらいの悲しみを味わうこともなかったのに。
それからの生活はなんだかんだ言って楽しかった。
海で捕れる魚を塩でそのまま焼いて食べたり、空さんがどこからともなく貯古齢糖(チョコレート)なんてものを持ってきたり。チョコって溶けないの?と聞いたら、これは軍支給のものだから溶けにくい貯古齢糖なんだよ、と教えてくれた。
ナイチから教えてもらっていた日本語も引き続き空さんが教えてくれることになった。イメージがつきづらいところは空さんも僕のために勉強してくれたらしいパラオの言葉で易しく教えてくれて、僕はまるで乾いた砂が水をぐんぐん吸い込むみたいに知識を詰め込んでいった。
けれども、あるときやっぱり体調を崩してしまった。暑い暑い日だったから、熱中症で倒れてしまったらしい。
ふっと僕の家の布団の上で目を覚ましたとき、空さんは安堵して目を涙でにじませていた。
『パラオ…!!良かった、目を覚ましてくれて…!』
『そら、さん……』
『…君に何かあったら、僕、陸に合わす顔がないよ…っ』
泣きそうな笑顔で、優しく僕の体を抱きしめてくれた。
ナイチとはまた違う、人間で言う…親、みたいな。
(……僕がスペインさんやプロイセンさんに会うよりも前に…この人と出会えてたら良かったのにな…)
空さんに対して、僕はいつしかそんな思いを抱くようになっていた。
家族という存在をそもそも持たず、たった独り小さな体で僕は生きてきた。そんなときに、こんな風に勉強を教えてくれて、体調を崩したときは心から心配してくれるような人と出会ってしまったんだ。
血は、確かに繋がってない。周りから見れば、鼻で笑うような浅はかな関係なのかもしれない。そうかもしれないけれど、僕はこのときだけは絶対に空さんとは“家族”だったと自信を持って言えるんだ。
空さんと出会って、もうすぐ半年が経つ。
夏も終わりかけの、8月下旬。
『…え?…空さん、今、なんて…』
『…僕も、そろそろ日本に戻るように言われちゃってね。…来週には、もうここを発たないと……』
『…そんな、いきなり………』
『…ごめん、パラオ』
あんまりにも深刻な表情をして、パラオ、と呼ぶものだから、何事かと思って僕は話を聞いてた。けれども、告げられたのはあんまりにも突然すぎる別れだった。
『い、いつ言われたの!?』
『昨日。…日本兵の将校がね、大本営からの手紙を預かってきてくれたんだ』
カサ、と僕の手に渡されるのは、難しい日本語がたくさん並んだ紙。日本語を習っていると言っても難しいものは全然読めないから内容は理解できない。けれど、空さんはその手紙を見て…まるでガラスみたいな空虚な感情を全身で表していた。
『僕、まだ君に教えることがたくさんあったんだけどな……』
『……』
泣きそうな笑顔で、空さんがそんな事を言った。
僕は、耐えられなかった。
『…………ッ!!!』
『パラオッ!?』
ガタ、と椅子を倒して勢いよく立ち上がり、僕は家の外に飛び出した。
砂浜を駆け、草の生えた地面を裸足で走って、僕の一番大好きな星のよく見える場所に向かって一心不乱に走った。なんとしても、あんな事実は受け入れたくなかった。
お気に入りの場所についたら、僕はすぐに地面に倒れ込んだ。ゴロ、と体を仰向けにして、まっすぐに夜空を見据える。いつもはそんなこと思わないのに、今日は眩しいぐらいに光ってる星がなんだか腹立だしかった。
『……なんで、僕の大切な人ばっかり消えちゃうんだろ…』
つらい思いを僕にさせる人は、長く。僕にとって大切な人は、すぐに居なくなってしまう。
僕は、対人関係の疫病神か何かなんだろうか?
(……もう、嫌だ……こんな生活なら、僕、国の化身なんかに生まれなきゃよかった…!!)
仰向けになっているから、涙は横に流れていく。
ぼろぼろと溢れる目を必死に閉じて、何も考えないようにしていたら、いつの間にか僕は眠っていた。
目が覚めて家に戻ると、もう空さんの姿はなかった。
代わりに、ナイチが居た。
『ナイチ…!!』
『…パラオ、久しぶり。…空が、すまんな』
『………』
抱きつこうとしていた手を引っ込めて、僕は俯いた。ナイチはそんな僕を見かねてか、頭をそっと撫でてくれる。空さんとそっくりな大きな手が頭をぽんぽんと撫でると、あの人の声が蘇るみたいで、視界がじわりと滲む。
『…パラオ、大丈夫だ。戦争が終わったら、また、空と会える。米帝のことも、戦うことも、何も気にしなくて良い。…そんな平和な世界を、俺達で作るから。…だから、泣くな、パラオ』
…もう、その言葉で僕は駄目だった。
『……ぅ、ぁ………ぁぁ……!』
あの人にちゃんと会わないまま、僕は別れてしまった。あんなにも優しくて、朗らかで、太陽みたいな笑顔を振りまく空さんの姿は、もうどこにもない。
ナイチはまた会えるって言ってたけど、会える保証なんてどこにもない。なんだったら、さようならを言った相手でも、もう次回はないのかもしれないのだから。
体中の水分が抜けるんじゃないかと思うぐらいに泣いて、泣いて、泣いて。僕はずっと泣いていた。でも、そのたびにナイチは頭を優しく撫でてくれる。
空さんと似てるその顔で、寂しそうな微笑みを見せてくれる。ナイチの優しさは、僕にとってとても辛かった。でも、ナイチが良かれと思ってやってくれてるのだから、僕は拒絶しなかった。
また、会えるのなら会いたい。会って、誠心誠意に謝りたい。
ようやく泣き止んだとき、そう思った。だから、僕は待つことにした。
あの人がまた笑顔で家の扉を叩き開けることを。優しい笑顔で僕のことを抱きしめてくれる日を。
けれども、叶わなかった。
結局、空さんは戦死したと告げられた。
生き残ったのは、ナイチだけ。たった、一人だけだった。海さんも空さんも、もう居なくなってしまった。
『…パラオ。これが、大日本帝国“特攻隊”の最期の瞬間を捉えた映像だ。…本当に良いのか』
『…何回も言ったでしょ、アメリカさん。…僕、覚悟はもう出来てる』
終戦後。1945年、秋。僕は、米国本土に居た。
ペリリュー島の戦いで米軍に保護された僕は、終戦するまでの約1年を米本土で過ごした。少し前に久しぶりに僕の国に帰ったけれど、そこはもう何も無いただの荒野だった。銃撃戦と大砲と空爆で荒れ果てた、真っ黒い土地が広がっていた。アメリカさんが責任を持って僕の国を再興させられるようにしてくれるらしいから、もう、良いけれど。
『…じゃあ、再生するぞ』
『………』
ジジ、と、一つの飛行機が画面に映っている。動画はまだまだ普及し始めたところだから詳細は随分と見づらいけれど、それでも十分なくらいに飛行機は大きく映っている。
この飛行機を、僕が見間違えるはずがない。
『………“ZERO”だ…』
『……』
ぽつりと、自然に名が零れ落ちた。アメリカさんは見たくないと言いたいのか、顔を少しそむける。
零式艦上戦闘機。ナイチが自慢げに話していた、日本…いや、世界最高峰とも謳われる戦闘機。
それが、まっすぐに飛んでいる。否、米空母からの弾を避けているから、きっと恐らく海面すれすれで滑るように飛んでいた。
それがまっすぐに、まっすぐに、一切曲がること無く米空母へと突撃する。そして、音もなく爆発の煙と炎が上がった。ザザ、と雑音が入って、そのまま動画は終わった。
『……』
『………これ以外の動画のネガは、すべて燃えきった。恐らく米軍に枢軸か何かのスパイでも居たのだろうな』
アメリカさんは大きなテープを大切そうに箱にしまい込んだ。僕は俯いたまま、動けなかった。
『………んで……』
『…え?』
『なんで、空さんは特攻なんかしたの…?』
『…!!』
『なんで、空さんが死ななきゃいけなかったの?なんで、僕のもとから離れて、特攻なんかしたの?ねぇ、ねぇ、なんでなの!?教えてよアメリカさん!!!!』
『それは、』
『特攻なんかに行くくらいなら!!!!』
『……僕のもとに、居てほしかった……』
『…パラオ…』
ひとしきり叫んだら、もう、涙はぼろぼろと出て止まらなかった。
なんで、なんであんな良い人が特攻で死ななきゃいけなかったのか。
僕には、何も、何もわからない。
『…特攻なんて、意味ないのに…』
『…それは違う、パラオ』
アメリカさんはそれまで殆ど黙っていたのに、いきなり声を張り上げた。僕が恐る恐る見上げれば、アメリカさんは僕から一切目をそらすこと無く話しだした。
『確かに、お前から見れば特攻隊…いや、航空隊のやったことは一切関係のないことだろう。でもな、空が居なければ…きっと今、陸もこの世に居ないだろうな』
『…どういうこと?』
僕は首を傾げた。アメリカさんは、フッと微笑んだ。
『ペリリュー島上陸の日。俺達は何隻かの空母も連れていた。そのうちの一番大きいやつが、とある理由で沈むことになった。…何でか、わかるな?』
『……まさか』
『そのまさかなんだよ、パラオ。
その空母が沈んだ理由は―――…空の、特攻機が突っ込んできたからだ』
戸棚から資料を取り出して、僕の前に広げて見せてくれる。確かに、沈んだらしい空母は随分と大きいものみたいだ。
『船のちょうど致命的な部分に空は特攻した。それ故に空は即死だったらしいが―――…この空母が沈んだことで、俺達は随分と戦力を削られた。だから、日帝が生きてる。…パラオ。特攻は、確かに命を空白に帰す、戦略とも言えないものだ。でもな、パラオ。特攻した人間を、責めちゃいけない。…現に、今、もし日帝がこのとき死亡していたとしたら?…お前は、ここに居なかったかもしれない。
空は、直接的ではない手段で、お前を守ったんだ。お前に、生きていてほしかったから。』
『………』
呆然と、僕は固まっていた。
不意に手のひらの上に、小さな銀色の物体が置かれる。
『…何、これ…?』
『最期、溶け残っていた空の遺物だ』
それは、ロケットペンダントらしかった。すこしだけ溶けて、表面に掘られていたらしい植物のレリーフが消えかけている。震える手で、そのペンダントを開けた。
『………ぁ……』
そのペンダントに入っていたのは―――…
僕や、空さん。そして、海さんとナイチ。4人で撮ったモノクロの写真だった。
僕は、その写真を裏返した。
『お達者で』
達筆な墨文字で、ただ一言。そう書かれていた。
『…ゔ、ぁ……ぁぁぁ…っ!!!!』
涙が、ぼろりと溢れる。まるで堤防が崩れるように、涙がとめどなく溢れてくる。
『…辛かったよな、パラオ』
『もう、我慢しなくて良い。
全部を焼き尽くした戦争は、もう、終わったんだ』
アメリカさんの手が、僕の頭を撫でる。
僕はいつまでもいつまでもペンダントを握りしめて、泣き叫んでいた。
…そんな日から、もう早80年。でも、まだ80年しか経たない。
『…行ってきます、空さん、海さん、ナイチ』
家を出る前に僕は写真立てに立ててある写真を抱きしめる。これが毎日の日課だった。
ナイチは勿論まだ生きてる。けれども、空さんや海さんにいってきますを伝えるのはこうするしか方法がないように思えたから、唯一残っていたあの写真をなんとか引き伸ばして画質を良くして、こうして飾るようにした。これを提案してくれたのは誰でもない、アメリカさんだった。
あれから僕は、いろんなことを経験した。
世界を二分割するほどの大きな対立があったり、色んなところで戦争が起こったり。僕の大切な人を何人も奪ったあの大きな戦争を体験しても、まだ世の中は争うことを辞めない。
『……』
けれども、僕は決めたのだ。
ナイチが、海さんが。そして、空さんが生かしてくれた僕の命を持って、この混乱の世の中を僕は飛び続けると。
いろんなしがらみがあって大変だけれども笑顔で必死に藻掻く。それが、きっと僕が出来る一番の恩返し。
『…空さん、僕…生きるよ。貴方の居ない世界でも、ナイチと、日本と、にゃぽんちゃんと一緒に。』
空に向かって、僕はそう呟いた。
あっちで空さんは海さんと一緒に優しく笑ってたらいいな、と。
そんな淡い願いを、胸に抱きながら。
Fin.
コメント
35件
泣きそうになった…書くのうますぎるよ…
死んできてもいいですか?やばい心にグサる…
うっ・・・。本で特攻隊の遺書を読んだ時ぐらい泣きました・・・。 特攻隊ってネガティブに捉えられる事が多いですが、ポジティブに捉えることもできるのか・・・。実際、通常の軍事作戦よりも大きな成果が得られたという理由で特攻隊が編成された訳ですしね。 続きます。