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積木くずし

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積木くずし

70 - 第70話 茹だる熱に侵されて…

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2024年09月16日

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「分母が因数分解できるから、初めにやっとくんだよ。分母が二次式なら分子は一次以下の式。つまり……ここまで、部分分数分解を行う。

一般的に一次式/二次式は分子が分母の微分型と分子が定数の分数に分別できるから、これを見越して式を展開すると―――こうなる。予めこうしておくと後の計算が楽だから」


そこまで右京が赤ペンを用いて式を書くと、


「なるほど」

蜂谷は唸った。


「お前の解き方も不正解じゃないんだけど、数学は何といっても時間との闘いだ。ゆっくり解けても意味がないんだよ。早く正確に解く必要がある。そのためには、“あ、これやったことある”っていう経験しかないんだ。だからどんどん数こなさないと」


「わかりましたよ。センセー」

言いながら蜂谷が髪を掻き上げる。


「それにしても………」


「ああ」

右京も制服の第一ボタンを外す。


「……クソ暑い」


「な……」


蜂谷と右京は同時に、今朝から調子の悪い部屋のエアコンを見上げた。


「見たところ新しそうなのになー」

右京が首を捻る。


「こんなにフル稼働で使う夏は初めてだから、パニックになったんじゃね?」


蜂谷は笑いながらシャツとインナーを脱いだ。


「いつも夏休みは家にいなかったから」

机に置いていた団扇で裸になった上半身を仰ぐ。


「修理業者も今はいっぱいだって言うし。明日から他の部屋で出来るように今夜、父親に言うから、今日だけ我慢しといて」


仰ぐ風から、蜂谷の匂いがする。


右京は毎日蜂谷の部屋に来ているくせに、夏の蒸された空間で改めて嗅ぐ彼の匂いに体を硬直させた。


「てか、勉強するメニュー決まってんだから、毎日来なくてもいいのに」


言いながら蜂谷が隣に椅子を並べる右京を横目で見る。

自分よりも色素が濃く、筋肉のついた身体が、汗によって少し光っている。

その掘られたような美しい鎖骨から右京は慌てて目を逸らした。


「さ、サボるだろ、絶対…!勉強は毎日やんなきゃ意味がないんだよ……!」


言うと、


「サボりませんって。せんせー」


言いながら蜂谷は右京が赤本から大量にコピーしてきた次の過去問を開いた。

肘をつき視線を落としている。

左から右へ流れる瞳、読みながら唇が僅かに動いている。


―――ちゃんと真剣にやってんだな。


蜂谷に家庭教師としてついてから1週間、当初はすぐに音を上げるだろうと思っていた蜂谷は、案外文句も言わず、右京の立てたスケジュールに沿って勉強を続けていた。


もともと頭は良いのだろう。

授業を聞くだけで、家庭学習などやったことがないとう割には、国・数・英の基礎学力は十分にあった。


特に数学は、数さえこなせば、満点を狙えるくらいだ。


それにしても―――。


「……すごい汗だな」


思わず発した言葉に蜂谷が再度こちらを振り返る。


「こんなに暑いのに、お前はどうしてあんまり汗かかないわけ?」


「慣れてんだよ。うち、昔から冷房ないから。お前みたいな温室育ちのおぼっちゃんとは体のつくりが違うんだよ!」


「関係あるかよ……」


蜂谷は苛立たし気に言うと、思い出したようにまた団扇で仰ぎだした。


「…………」


確かに、暑い。


窓を開けても、窓を閉めても、暑い。


ミーンミンミンミンミンミンミー


大きな庭に並んでいるモチノキにとまっている蝉が、高らかに鳴き出した。


1匹鳴き出すと、競い合うようにもう1匹、さらにもう1匹と、蝉の大コーラスが始まる。


「………くっそ。うるせえな」


蜂谷は鼻で笑いながら、仰ぐ団扇を早くする。



うだるような暑さ―――。


交差するセミの鳴き声―――。


綺麗な鎖骨のライン。


薄く盛り上がった胸筋。


腹にもちゃんと線が入っていて、


やけに緩そうな短パンから、


中のボクサーパンツのロゴが見えている。



パタパタパタパタ。



蜂谷が仰ぐ団扇から吹いてくる風が、


蜂谷の匂いを―――。



「―――脱げば?」


蜂谷のいつもより息を多く含んだ声が響く。


「暑いなら、お前も脱げよ」


「……だ、誰が、ぬ、脱ぐか!馬鹿!」


その明らかに焦った声に、蜂谷が長い前髪の間から右京を見つめる。


「え、ちょっと。何?欲情してんの、お前」


「!!し、て、な、い!!」


「―――へえ」


蜂谷はくるりと体の向きを変えると、キャスターがついている右京の椅子も蹴りながら強制的に自分の方を向かせた。


「じゃあ、ソレは一体なんだよ?」


対面し、おもむろに顎でしゃくられて右京は自分の下半身を見た。


そこには制服のチャックを歪ませるほど腫れあがったソレがあった。


「こ……これは……あ、暑くて……!」


「暑いとこんなことなるのか。お前のここは……」


「あ、ちょっと……!」


試しに股間に手を伸ばしてみるが、自身でも自分の身体の反応に戸惑っているらしい右京は、その手を振り払ったり、先日のように膝蹴りをしてきたりはしなかった。


そっと制服の上から触れると、そこは気の毒になるほど熱を持っていた。


「おいって……」


迷いが生じる隙を与えずにグッと椅子ごと右京を引き寄せ、盛り上がったそれを付け根から先まで絞りあげた。


「……んっ!」


右京がギュッと目を瞑りながら自分の肩に頬を押し付ける。


捻った首筋に汗が光る。


――なんだ、やっぱりこいつも汗かいてんじゃん。


蜂谷は足を左右に開き、右京を挟むようにさらに引き寄せると、その首に舌を這わせた。


「んん……」


なんだか右京の艶っぽい声を聴くのは、酷く久しぶりな気がする。


汗を嘗め取るように舌先を滑らせると、


「あッ……!」


右京は素肌の蜂谷の二の腕にしがみ付いた。


「なんだよ、やけに反応がいいな……」


言いながら硬くなったソレを上下にしごく。


「はち……や……」


引き寄せた右京がバタバタと動き、机の上にあった数学のプリント用紙が床に散らばる。


「――――」


せっかく印刷してきたのに!とキレるかと思いきや、右京はただ目を閉じて、繰り返される股間の刺激に耐えている。


「―――はは」


蜂谷は笑いながら、今度はその白い耳に舌を這わせた。


「随分、エロい身体になったな、右京」


耳の中に囁くと、右京の腕に鳥肌が立つ。


――おもしれえ身体。


「それとも……永月に抱かれて開発されたか?」


「………!」


身体には快楽を与えつつ、精神的には追い詰めて、傷を抉る言葉を選んでしまう。


「なぁ、どうなんだよ。永月とのセックスは気持ちよかったか?」


ギュッと閉じていた右京の目が開き、蜂谷を睨む。


「よかったな、あいつの本性を知らないうちに気持ちいいことできて―――」


「…………」


言われていることは悔しいはずのに、否応なく与えられる刺激に耐えられず、瞼が痙攣する。


―――いいだろ。こんくらい。俺だってめちゃくちゃ――。


カチャカチャとベルトを外す。


「あ、待………んんっ」


何か言おうとした口を、唇で無理やり塞ぐ。


――めちゃくちゃ……ムカついたんだ……!




右京のつま先が、彼が“無駄に高そうだ”と形容したカーペットの上を滑る。


ミーンミンミンミンミンミンミー


蝉の声はまだ続いている。


「は……んん……あ……ハアッ」


合間に右京の熱い息が漏れる。


チャックを下ろし、パンツの中に手をさし入れると、その先端はまるで女のように濡れていた。


永月と別れて以来、久しぶりに他人から与えられる刺激に感じたのか、それとも淫らな行為中に名前を出されて、あいつとの情事を思い出したのか。


どっちにしろ……。


「ムカつく。お前……」


「……んッ」


一層深く舌を挿れこむと、その動きに合わせて首が仰け反り、第1ボタンは外しているが、第2ボタンが右京の首元を絞めている。


無意識にそれを外してやると、つい左手がその奥に伸びる。


インナー越しに胸の突起を探り当てるのは驚くほど容易だった。

そこは蜂谷が触る前から硬く尖っていて、合わせた唇に思わず笑みが零れた。


先端をカリカリと刺激しながら、いやらしい音を立て始めた股間の方も力を強めていく。


「……はぁ!…ああ……ッ」


右京が蜂谷の首に抱きついてくる。


荒い息がむき出しになった蜂谷の鎖骨にかかる。


「蜂……谷……!」


1本の足が蜂谷の足に乗り、腿同士をすり合わせてくる。


―――こんなに気持ちよさそうにするくせに……。


蜂谷は両手に力を込めた。


―――なんで他の男にヤラれたんだよ…お前は……!


「……もうイキそう?」


震えだした股間のソレを扱いていた手のスピードを落とす。


「―――そ、んなんじゃ……イけな……」


ゆっくりと形を確かめるようになぞりながら、蜂谷は笑った。


「そんなんじゃイケないって?失礼な奴だなー、お前は」


言いながらもスピードは上げない。


でも片鱗が見えている絶頂を遠ざけることも許さない。

イけないすれすれのラインを保ちつつ、確実にかつ正確に刺激を与え続ける。


「……そんなに永月のがよかったか?」


言うと右京は蜂谷に抱き着いたまま顔を上げ、上目遣いにこちらを見つめた。


「永月に……、何回も……イかされたけど……」


「――――」


―――こいつ、殺す。


確かに感じた殺意に右京の胸の先端をつねる。


「あ……!」


右京はビクンと反応すると、その刺激を飲み込むように目を瞑ってから、また必死で蜂谷を見つめた。


「違和感が……すごくて……」


「―――違和感?」


予想していなかった言葉に、蜂谷は眉間に皺を寄せた。


「俺……。自分はそういうこと、しないと思ってたから」


―――そういうこと?セックスのことか?


「でももし……。もしも、するとしたら……」


「――――?」


「……相手は、お前だと思ってたから……」


「――――!」


その言葉に、蜂谷はチカチカと眩暈を覚えた。


―――やっぱり。


やっぱりあいつより先に………。


俺が最後まで犯してやればよかった……!



蜂谷は右京の膝の裏に肘を差し込むと、ぐいと持ち上げ、自分の上に座らせた。


「…うわ……!」



よろけた身体を支えると、蜂谷は右京を乗せたまま、自分の短パンとボクサーパンツを一気に引き下ろした。



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