コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
最近から毎晩、夢を見るようになった。
真っ白な空間で女性が私に背を向け、ひ
たすら私の名前を呼んでいる。
「りな、りな、りな、りな…」と。
何より優しくて、今にでも消えてしまい
そうな声で。
そして、どこか切ない気もする。
その日も同じ夢を見た。
ベッドの上で、窓から見える桜を眺めな
がら呆然としていると、ドアを誰かがノ
ックした。
「りな、入るぞ。」
そう言い、部屋に入ってきたのはお父さ
んだった。
お父さんの隣には、いつもお世話になっ
ている女性もいた。
「りなちゃん、起きていたんだね。」
女性はそう言い、ベッドの隣の机に朝食
を置いた。
すると、横でお父さんが袋の中をゴソゴ
ソと探りはじめた。
袋の中からリンゴを取り出すと、皮を不
器用に剥いた。
「このリンゴ、おばあちゃんからの差し
入れだよ。お父さんも食べてみたけど、
めっちゃ甘くて美味しいよ。」
お父さんは微笑んだ。
毎日この繰り返しで、生活は楽しくなか
った。
でも今日は違った。
「りな、ごめんな。」
お父さんが突然、私の膝の上で泣いた。
こんなお父さんは、見たことも聞いたこ
ともなかった。
女性は口元を両手で覆い、眉間にしわを
寄せた表情をしている。
その日はいつもよりお父さんがいる時間
が長かった。
深夜頃にお父さんは帰って行った。
その後、私は眠れないまま窓から桜を眺
めていた。
頬に何かが触れた感じがした。
気付けば、目から涙が流れていた。
涙を拭った手を見ると、激しく震えてい
た。
呼吸がどんどん苦しくなってゆく。
(怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い…)
その時、夢の中の女性が現れた。
夢ではない、現実で私の名前を呼んでい
る。
「りな、りな、りな…」
気付けば、女性は私に振り返っていた。
その正体はお母さんだった。
お母さんは、白い手で私の頬に触れた。
「迎えに来たよ。」
手はもう震えていなかった。
私はゆっくりまぶたを閉じた。