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「………ん…」
下腹部あたりから、もはや何の液体かわからない濡れそぼった音が続いている。
「………し…篠崎…さん………」
「……ん」
「……俺の、下半身……ちゃんと、あります……?」
「………はぁ?」
「……溶けちゃったんじゃないかと、し、心配で……」
由樹は目を開けることも出来ず、手で触って何をされているの確かめることもできず、枕を抱きしめ、ただ瞼を瞑っていた。
何度かその枕を篠崎に避けられそうになったが、強く抱き締めて、頑として離さなかった。
熱い口に、長い指に、抉られるような快感に耐えられず、立てた膝が痙攣を繰り返す。
もう何がなんだかわからないくらい興奮して、意識を保つのがやっとだった。
「……まあ。こんだけ吐き出せば……“溶けた”って言っても過言じゃねぇな」
呆れたような篠崎の笑い声が聞こえる。
(そうか。俺はもうそんなに。………………ん?)
「嘘!?」
慌てて枕を外す。
「……引っ掛かったな」
篠崎が笑いながらそれを奪うと、ひょいと由樹の頭の下に入れ込んだ。
「あ……」
「ちゃんと見ろって」
膝をぐいと左右に持ち上げられ、身体を寄せられる。
篠崎のものを溶けるほど慣らされた入口にあてがわれる。
(……や、やば……い……!)
恐怖と興奮と期待で、薄い胸が大きく上下する。
それを見下ろしていた篠崎が、由樹を睨み上げる。
「……俺にも、ちゃんと見せろ」
次の瞬間、全身を突き抜ける快感に、由樹は顎を高く上げた。
◆◆◆◆
十分に慣らしたつもりだが、如何せん男と女の勝手の違いが判らないため、その“十分”に自信がない。
新谷の少し苦しそうな顔を見ると、まだ足りなかったのかと不安になる。
「……平気か?」
耳に唇を寄せて囁くが、彼は応えるどころじゃないらしく、篠崎を必死で見つめながら、唇をパクパクさせている。
「……おい、どっちだよ」
試しに二度、三度と腰を動かしてみると、
「………あ、……あっ!」
その口から、明らかに艶を含んだ声が漏れ出した。
(やばいな……)
その髪を撫で上げ、滑らかな頬にキスをする。
正直、男とのセックスなんて、疑似的で精神的な快感しかないと思っていた。
そうだとしても、新谷を自分のものにしたかった。
たとえ一時だけであっても……。
その手っ取り早い手段として、セックスを選んだはずだった。
しかし……。
(……なんだ、これ……)
明らかに女よりも堅いはずの肉体が吸い付いてくる。
低いはずの彼の声が、呼吸が、脳髄を溶かしていく。
確かな男の匂いが、ぶつかる骨が、興奮の渦へと巻き込んでいく。
(……俺は、何を悩んでたんだ)
夢中で腰を打ち付けながら、彼の潤んだ瞳を見つめる。
(答えは、こんなにシンプルだったのに……)
その唇を夢中で貪る。
(俺は、こいつを……)
膝裏を抑え込んで足を上げると、ひと際深く腰を挿し入れた。
(誰にも渡したくない………!)
「…………っ!……あぁ!」
ガクガクと腰を震わせながら果てた新谷のそれを見下ろして、篠崎は彼の反り返った顎のラインを軽く嘗めた。
「ん……」
枕の上に小さな顔が落ちる。
腕を握りしめていた細い指も、つま先まで引きつっていた脚も、身体中の芯が抜けた。
「……新谷?」
優しく声を掛けるが、完全に飛んだ新谷は顔を横に向けたままだ。
「おい」
言いながらその頬をペシッと叩く。
目から涙が一筋、流れて枕シーツに吸い込まれていった。
「……ふっ」
思わず吹き出すと、篠崎は彼の横に寝転がり、頬杖をついた。
両手を放り出したまま眠る新谷を見つめる。
「……………」
その鼻をつまむ。しかし彼は反応することなく、器用に口呼吸に切り替え、寝息を立て始めた。
すると、先ほどまで嘘のように引けていたアルコールが、また篠崎の体に戻ってきた。
軽く眩暈を覚え、隣に仰向けに寝転がる。
「…………」
まあ、いい。
今日はもう、いい。
明日起きたら、ちゃんと伝えよう。
結果、彼がどんな未来を選択するかはわからない。
(……でも、俺は……)
篠崎は揺るぎない気持ちの重さと苦しさを、不思議と心地よく感じながら、怠い瞼を閉じた。