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アバロンオブラグナロクの王城から少し離れた郊外の森。木々が生い茂るその場所は、普段は人々が足を踏み入れることのない静かな場所だった。しかし、その日は少し様子が違っていた。
龍神は、普段の忙しさを逃れ、無意識に足を運んでいた。彼にとって、こうした時間が少しの安らぎとなり、心の中で静寂を求めることもあったのだ。
だが、その静かな時間が突如として破られた。
「おい、ここ、ちょっといい感じじゃねぇか?」
聞き慣れない、気取らない声が響いた。龍神はすぐにその声の主を確認し、周囲を鋭い眼光で見渡す。その視線が捉えたのは、一人の少年──サブだった。金髪で、目の下にくまを作ったその少年は、まるで何も知らず、自然と歩いているように見えた。
「何だ、ここで何してんだ?」
サブが龍神に気づくと、少し肩をすくめ、無頓着に答えた。
「別に、散歩してただけだよ。こんなところで出会うなんて珍しいな。」
その言葉に、龍神は驚愕した。自分が誰かを気取らず、まるで普通の人間のように接してきた少年。こんなに無防備で、無礼な態度を取られることに慣れていなかった龍神は、眉をひそめていた。
「お前、俺が誰だか分かっているのか?」
その問いに、サブは少し考え込み、口元を緩めながら答える。
「んー、誰だっけ?」
龍神の目が鋭く光る。サブのその軽薄な態度に、一瞬、怒りの感情が込み上げてきた。王として、龍神は常に尊敬を受ける立場にある。しかし、この少年はまるでそれを無視するかのような態度を見せていた。
「俺に会うのは、そう簡単じゃないぞ。」
龍神は冷徹に言い放ち、立ち上がった。彼の周りには、瞬時にその力が現れ、空気が一変した。だがサブは、そんな龍神の威圧的な空気に全く動じなかった。
「ふーん、そうなんだ。でも、俺はこういうところで偶然会うのって悪くないと思うけどな。」
サブは無意識に龍神の前に歩み寄り、身の回りの空気に感覚を奪われていなかった。龍神の態度は変わらず冷徹で、立ち上がっているものの、少し動きが止まった。
その瞬間、龍神は思わず剣を取り出し、サブに向けて振り下ろそうとした。
「無礼な……」
だが、その刃がサブに届くことはなかった。サブは悠々と、まるで風のように素早く身をひねり、龍神の剣をかわしてみせた。
「おっと、やっちまうとこだったじゃん。さすがにその剣で俺を切ろうとか、ちょっと怖いな。」
サブは冷や汗をかきながらも、余裕の表情を崩さない。その姿勢が、龍神には新鮮で、逆に興味深いものとして映った。
「貴様、あまりに無礼だ……だが、面白い。」
龍神は剣を戻し、改めてサブに対する気持ちが少し変わったのを感じた。普段はその場の空気を読まずに話す者が多い中、サブの態度は少しばかり目を引いたのだ。だが、サブが自分をどう捉えているのか、龍神はまだ分からなかった。
「お前、俺を殺す気だったのか?」
サブが直球で訊ねたことで、龍神の目がさらに鋭くなった。
「……殺す?」
龍神は少しの間、沈黙した後、再び言葉を続ける。
「お前は、俺に対してなんの敬意も示さなかった。それは許しがたいことだ。」
その言葉に、サブは肩をすくめながら言った。
「いやー、怖いね。殺されるなんて思わなかったよ。でもまあ、俺にはあんまりそういうの、合わないからさ。」
サブの答えに、龍神は無言で立ちすくんだ。冷徹な王として生きてきた自分が、こんな形で無礼な少年に向き合うとは思ってもみなかった。だが、次第にその不意の反応が、どこか面白いと思い始めていた。
「お前、何者だ?」
龍神は、サブに対して少しだけ興味を示しながら、再び尋ねた。サブは少し考え、軽く笑いながら答えた。
「ん?俺はただの勇者。まあ、名乗ってもいいんだけど、面倒だからその辺にしておくよ。」
その一言で、龍神は思わず目を見開いた。勇者――あの伝説的な存在が、目の前にいるという事実に、驚きを隠せなかった。だが、今のサブにはそのことを伝えるつもりはないようだ。
「なるほど……」
龍神は、少しだけ冷静さを取り戻し、再びサブに向き直る。
「ならば、お前も覚悟を決めて、俺と向き合うべきだ。」
サブは少し戸惑った後、にやっと笑いながら言った。
「いや、別に向き合うつもりはないけどね。でも、君と少し話してみたかっただけ。」
その言葉に、龍神は言葉を失い、しばらく黙っていた。だが、次第にその無礼な少年に対する関心が、彼の中で次第に強くなっていった。
「面白い。」
龍神は、ついに口元を緩め、冷徹な笑みを浮かべた。
「お前、少しだけ俺に従う覚悟を持て。」
サブは少し考えてから、力強く言った。
「ふん、いいけど、俺はやりたくないことはやらないよ。」
その返事に、龍神は少しだけ笑みを浮かべ、サブを見つめ返した。
「それが、面白い。」
その瞬間、二人の間に新たな関係の芽が生まれた――。