「これからァ!犯罪者であるこの男に裁きを下す!」
「よしやれ!」「とっととそのクソ野郎を殺せ!」「外道を許すな!」
うんうん、良い罵声だ。こんなクソ野郎は憎まれて当然、むしろなんで今のまで生きてたんだ?
「罪状読み上げ!」
隣に立つ看守が木版に書かれている罪状を読み上げる。俺は手に持つ斧に目をやり、処刑用の斧の重さを確認し、問題がないか確認する。うーん、いい黒光りだ、首を簡単に切り落とせそうだ。
「ローマンと呼ばれるこの男は城下街で数十人の男女を殺害、及び強姦、盗み、強盗、様々な犯罪を行ってきた!故に処刑をここに開始する!」
声を荒らげて喋る看守に民衆はヒートアップ。処刑台周辺に人が来ないように衛兵がガードしてるけど押され気味だ。まぁ数少ない娯楽のひとつだし、興奮するのは分かっているが……最前線にいる殺害された人達の親族が大暴れしてら。
「では、処刑人。殺ってくれ」
「あいよ」
出番が来た。巨大な片刃の斧を肩に乗せ、処刑台の上でみっともなく叫ぶ罪人の元へ歩く。処刑人である己を示すように、一段一段確実に音を出しながら階段を上がる。徐々に近づくにつれ、顔を恐怖に染め、失禁し始めたのか、臭い匂いがする。
「ちっ……処刑されるのは確実だったのに覚悟もしてねぇのか」
ボソリと呟くが、今の俺は処刑人。本来は黙々と殺すことを生業としている。なので全身を黒い服に包み、顔には黒い布が被さっている。魔法って便利ね、絶対に顔を外に出さないようにすることが出来るからさ。
そんなくだらない事を考えながらも足は進んでおり、ついに処刑台に登りきった俺は斧を振りかぶる。
「では、処刑する」
低く、感情を乗せない声でそう言う。前任の処刑人にみっちりしごかれた部分だからよくできている。
「や、やめてくれ!俺はまだ死にたくない!やめ──」
「執行」
全力で振り下ろす。斧という質量兵器が首に当たり、ねじ切りながら地面である金属製の床にめり込む。瞬間溢れ出す血しぶき、顔にかかるが布が塞いでくれるので気にしない。だがこれで終わりではない。ゴロンと落ちた首の髪を掴み宣言する。
「今ここに1人の罪人が死んだ!またひとつ我らがエストランド王国は平和となった!」
その言葉に民衆は湧き上がる。その声を他所に死体を引き摺り、下がる。今日もまた、お勤めが終わった。
俺の名前はバートン・ウェルデ、今年で22になる処刑人及び王国の牢の看守だ。一応転生者……ってことになるのだろうか。別に前世の自我なんてものは無いけども、前世の記憶なら存在する。前世の記憶に引っ張られたことは無いとは思うけども。日本人とやらは殺人に対して忌避感を持っていることから分かるだろう、日本人の前世の自我持ちなら処刑人なんてクソみてぇな職業にはつかないからな、おぞましい何かだと思うだろうよ。まぁウチがおかしいってのもあるだろうけど。
元々ウェルデ家と呼ばれるウチは処刑人を排出してきた、立派な殺人一家だ。そこの子供である俺ももちろんそういった教育を受けてきており、常に犯罪者共と関係を持ってきていた。別に正義感などというものを持っている訳ではなく、仕事の一環として処刑人をやっている。まぁ前任者、親父は王国信奉者だがな。
それで話は少しズレる……というか今の俺の立場に関係する話なんだが、ウェルデ家の成り立ちから話していくぞ。それでウチの成り立ちなのだが、王国が出来た時、それ以前の初代国王と旅をしていた一員が初代ウェルデ家当主だったらしい。それで割と面白いことに初代国王の妾に初代当主はなっていたらしく、うちには王族の血が遠いながらも混じっているらしい。そのためか家系図を見る限り、定期的に王族が嫁や婿として来るのだ。まぁ大体が頭の弱いやつとか隠し子、馬鹿なヤツ、出家しそうになったやつ、忌み子と呼ばれたやつなどいわく付きばっかり来てる。まぁ血筋を途絶えたくないんだろうな、うちからも王族に嫁ぎに行ったりしてるし。らしいばっかなのは……詳しく教えられていないからだなぁ。
それで……まぁ……うん。ぶっちゃけるが、俺は割とウェルデ家からすると異端児だったんだ。そりゃ前世の記憶持ち、幼児の頃からどこか達観していた俺は普通13歳辺りから殺人の練習などをするのに対し、俺は8歳の頃から殺人をしているのだ。そのためどこか擦れているようなイメージを周りに持たれた、別にそんなことないのに……ただ慣れただけなのだが、そんな異常とも言える精神を持つ俺は若くして処刑人となり王国のために処刑をしていたのだが……そこをこの国の王女、しかも継承権がくっそ高い第2王女にバレたんだよ。確か第四位くらいだったかな、政争に巻き込まれる位のやつに目をつけられたのが俺の人生が狂い始めたわけで……
こっからちょいと面倒事になった。第2王女に目をつけられた俺はさらに特殊なことになり、処刑人であり牢の看守なのに……第2王女の護衛となったんだよな。その采配はうちのバカ親父のせい、あいつ興奮して国王に色々と話をつけて護衛にしやがった、オマケに処刑人の仕事を持たされたままで。
ちょっと話していて俺も混乱してきた。リセットしよう……
うん、んで、何が言いたいかと言うと……いい加減俺の立場をはっきりしたいなって。曖昧なんだよ今の俺、処刑人で、看守で、第2王女の護衛で……どれかひとつに絞りたいのに、うちの親父が許してくれない。どうせぇっちゅうねん──
「バートン、バートン来てちょうだい」
あぁ……現実逃避はここまでか……王女に呼ばれたので、部屋へと入る。
そこには全体的に細身な第2王女、アリス・ガルナ・エストランドが居た。生来の病弱のせいで常に寝たきり、あまり太陽に当たれていないのか肌が白く、多分見る人によっては幼く見える顔をこちらに向けていた。俺より1歳下の21歳のくせに幼く見られるんだもんなぁ……
「…………はぁ……」
「私の顔を見るなり溜め息とは酷いですね」
そう言いつつもこの王女様は楽しそうに笑う。多分お気に入りというか……想い人である俺と会話できるから嬉しいのだろう。え?なぜ想い人であるって判断できるかって?1年前まで四六時中告白されまくり、オマケにわざと俺を呼びつけて着替えている姿を意図的に見せつけてきたり、病弱の体のくせに夜這いしてくるやつからの想いに気づかないわけがないだろう?正直俺が折れなきゃずっと俺の貞操が狙われ続けていたと思う。クソが……
「あら、血の匂いがするわね」
「処刑してきたあとだからな、風呂に入る前に呼び付けてきたのは誰だろうな?」
「別に私は慣れっこよ?」
「普通王女は匂いに慣れないと思うけどなぁ……」
この王女、血の匂いになれているのだ。原因は簡単、上の継承権持ちとか、下の継承権もちとかに暗殺者を差し向けられているからだ。それを夜通し守っているのが俺なわけで……
「なんだかなぁ……人殺しの技術が、人を守るために使われるのはなんか不本意なんだよ」
「それいつも言ってるわね、別にいいじゃない。どっちにしろ人を殺してるわけだし」
「……それで何の用だ?別になんの意味もなく呼んだわけじゃ──」
「闘技大会、知ってるわよね?」
闘技大会──王国中の猛者共が集まり、王国最強を決める3年に1度の催し。その内容はとてつもなく激しく、死者が出るのは当たり前なやばい行事である。一応武闘大会と呼ばれるものもあるが、これは武術を学んでいるものしか出れない。闘技大会は無法者も大歓迎な危険なイベントだ。
「それがどうしたんだ?まさか俺に出ろと?」
「私の配下として、ね」
「……どっちの姿で出るんだ?」
どっちの姿、その意味は簡単で処刑人としてかバートン・ウェルデとしてでるかなのだが……この王女くっそにやにやしてんな。なんだってんだ。
「私の婚約者・・・としてお願いするわ」
「どっちでなかったかー、強いていうならバートンとしてでるのか……いや、なぜに俺。別に他の護衛筆頭でも良かったんじゃ……」
「私の護衛達よりあなた一人の方が強いじゃない、それにそろそろ政争関係でやらないといけないし」
なるほど、つまり対外的に俺を見せつけ敵対するなら俺を押し付けるぞ……と。それを婚約者にやらせるのはどうかと思うが、効果的なのだろうか?
「あなた自分がどれだけ規格外か自覚してるのかしら?」
「ん、まぁ……大体は?」
規格外と言われる原因は圧倒的な筋力と魔力だろうな。うん、若気の至りと言うやつだ。前世に読んだラノベに習って魔力枯渇をアホほど繰り返していたらとんでもない魔力量になってた。それと……もう一つ能力あるけども割と戦闘には関係なかったりするから今は黙秘で。
「まぁいいわ、既にあなたのことは出場者にしておいたから」
「人の相談なくやるとか貴様鬼か」
「ふふ……まぁいいじゃない。かわいいかわいいお嫁さんからのお願いなんだから」
「自分で言うなよ、可愛いけどよ」
「ありがと」
気恥しいわ、普段こんなこと言わないから尚更恥ずかしいわ。確かに可愛いから可愛いとは言うけど真正面から言ったの久々だぞ……人からこんな直球に想いを向けられるのは初めてだからどう接したらいいのか分からんしな……
「もっと言われたいけどやめておくわね……闘技大会はそういう事だから、鍛錬怠らないでね?」
「生まれてこの方怠ったことなどないぞ、まだまだ俺は成長する。んじゃ風呂はいってくっから。俺が戻るまで結界から出るなよ」
背を向け部屋から退出し、大衆浴場へ向かう。まぁいわゆる従者用の風呂場で割といつでも使えるかは重宝している場所だ。早くこの血なまぐささを撮りたい。
「本当に自分自身の能力が規格外だと認識できてるのかしら?」
自身の婚約者であるバートンが退出した後、独りごちる王女。
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