美咲は教室で静かに座っていると、放課後のチャイムが鳴った。その音とともに、いつもと同じように慌ただしく教室が解放され、生徒たちは次々と帰り支度を始める。しかし、今日はいつもと違う。心の中で、何かが始まる予感がしていた。
「美咲。」
その名前を呼ばれて、思わず顔を上げると、そこに立っていたのは智也だった。彼は少し照れくさそうにしているが、その表情の中には決意が感じられる。
「智也くん…?」
美咲は驚いたように、しかし、どこか心が温かくなるのを感じながら答えた。智也が自分に声をかけてきたことが信じられなかったが、その顔はどこか、何かを決めたような真剣さがあった。
「実はさ、今日放課後、ちょっと話がしたくて…よかったら、時間ある?」
その一言に、美咲の胸がドキドキと高鳴った。智也からの誘い、しかも放課後に二人きりで話すなんて、一体何を話したいのか気になって仕方がない。
「え、あの…もちろん、時間あります。」
美咲はすぐに答え、心の中で何度も自分に言い聞かせた。「冷静になろう。落ち着こう。」でも、心臓は抑えきれないほど速く鼓動を打っている。
智也は少し安堵したように微笑んでから、歩き出す。「じゃあ、校庭のベンチで待ってるよ。すぐ行くから。」
美咲は、智也が去って行く背中を見送ると、自分も急いで支度を整えた。自分に何が起こるのか全く分からないけれど、確かなことはただ一つ。これが、何か特別な瞬間になる予感がしていた。
校庭に着くと、智也はもうベンチに座って待っていた。その姿を見て、美咲の心は一層高鳴る。少しの間、どうしていいか分からず立ち尽くしていたが、智也が気づいて手を振った。
「こっちだよ、早く来て。」
その声を聞いて、ようやく美咲は足を動かし、智也の隣に座った。二人の間に少しの沈黙があったが、それも不自然に感じることはなかった。何か、言葉にできない感情が二人の間に漂っているような気がした。
智也は、少しだけ息を吐きながら、ゆっくりと口を開いた。「実は、美咲にずっと言いたいことがあったんだ。」
その言葉に、美咲は胸の中で何かが弾けるような気がした。「言いたいこと?」
「うん。」智也は顔を少し赤くして、でも目を逸らすことなく、美咲を見つめた。「実は、俺、ずっと美咲のことが気になってた。いや、気になってるって言うより、もっと言えば…好きだ。」
その言葉が、美咲の耳に入った瞬間、世界が一瞬止まったように感じた。彼が自分のことを…好きだと言ったのだ。心の中では喜びが込み上げてきたが、同時にその現実にまだ信じられない気持ちもあった。
「智也くん…私、あなたのことが…」
美咲はその先を言うことができなかった。気持ちが溢れすぎて、言葉がうまく出てこない。代わりに、彼女は少し手を震わせながら、智也の目を見つめた。智也はその目をじっと見返し、やがて再び言葉を続けた。
「だから、これからもずっと…一緒にいられたらいいな、って思ってる。」
その言葉に、美咲は思わず涙が出そうになった。何度も何度も心の中で願っていたことが、今、目の前で現実となった。智也が自分を好きだと言ってくれることを、ずっと夢見ていた。
「私も、智也くんのことが好き…」
美咲はやっとのことで、その言葉を口にした。心から、何も迷わず、ただただ彼に伝えたくて。その瞬間、智也は嬉しそうに微笑み、少しだけ顔を赤らめた。
「そうか…よかった。」智也は少し照れながらも、優しく美咲の肩に手を置いた。その温もりが、美咲の心に深く刻まれた。
その日、二人の関係は新たな一歩を踏み出した。しかし、美咲にはまだ分からなかった。この先、二人の関係がどんな風に変わっていくのか。智也の気持ちが本物なのか、それとも一時的な感情なのか、彼女の心には疑問もあった。しかし、今はただ、智也との約束を信じることしかできなかった。
夕暮れの校庭で、二人は静かに寄り添い、未来へと歩み出す準備をしていた。
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