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少し風が吹いた時、その人は立ち上がって、私の方に歩いてきた。

え、何…

身構えると、その人は微笑んで口を開いた。

「君の名前、なんていうの?」

「ぇっ」

急にそんなことを聞かれるとは思わなくて、つい変な声が出てしまった。

私が黙っていると、その人は「あっ」と言い、手のひらを振った。

「ごめん。知らない人に名前聞かれても、普通答えないよね。本当、ごめんね」

……

少しだけ、この人のことを、いい人だなと思った。

そんなこと、普通謝らないのに。

「じゃあ、俺が先に言うから、名前教えてくれる…?」

「……まぁ」

自分でも驚いた。自然に言葉が出てくるなんて。

「ありがとう」

…この人がふっと笑う時、優しくて穏やかな目になるのが、すごく素敵だと思う。

「俺の名前は…祐依(ユウイ)」

ゆうい…綺麗な名前。

「…私は…、音都」

「音都?…いいね、すごく綺麗な名前」

綺麗…?綺麗なんて、初めて言われた。

「”おと”って響き、俺はすごく好きだな。音色が聞こえてきそうで、本当にいいなって思う」

すごく褒めてくれる。そんなに褒められたことなんて一度もないから、とても顔が熱くなった。

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