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子供のころ好きだった子がいた。よく笑う子で女の子なのに男同士の仲に付き合ってくれるノリがみんなにウケが良かったそんな子だ。だからか彼女に好意を寄せる子が多数いたがその子は全部軽くいなして幼いながらになんてスキル持ってるんだと感じたのを今もなお鮮明に覚えている。ちなみに僕はそのアタックしていった男たちの輪にはいない。確かに好意を持っていたが僕にはそれを口に出す勇気がなかったからだ。つまるところ保身に走っていたということ、振られるのが怖くてたった一言を伝えられなかった。けど、それを伝えないことが一生の後悔になるなんて誰が予想できたのだろうか……。内に秘めたこの想いはもう二度と心の箱から出てくることはなくなってしまった。
ある日を境に彼女は学校に現れなくなり、それから数日後には引っ越しが決まって別れの挨拶もできないで彼女は遠くに行ってしまった。せめて最後は僕も玉砕覚悟で彼女に伝えることを伝えられたらとその後悔は今も消えない。子供のころのそんな小さな後悔が大人になってボディブローのようにじわじわと効いてる。そんな出来事があったからこそ、僕は伝えられるときに伝えるべきことを伝えるようにして今日まで生きて来た。この後悔は二度と消えないけど経験は次に活きている。でも、それでももし許されるのならば僕はもう一度彼女に会いたい。会って伝えたい。僕は君のことが……。
「……おい!何ボーッとしてんだよ!!久しぶりに母校に帰ってきたのにさ!」
「ん?あ、あぁ……。ごめんごめん。昔を思い出してたんだ。」
時は過ぎて今僕は二十歳になった。なりたかった二十歳には残念ながらなれなかった。ほかの友人よりも早く社会に出て、現実を知って耐えきれなくて今は実家暮らしでバイトして底辺の生き方をしている。こんな僕でもまだ友人と言ってくれる人間が数名おり、その友人たちと無邪気で楽しく何も考えないで遊んでいられた小学校に来ている。今はもうその小学校も惜しまれながら閉鎖しており、思い出が形ある状態でそこにあるだけだった。ここで僕は初恋をし、そして何もせずその恋は枯れた。未練がないというのは噓になる。でも、彼女の存在が僕にとってはとてもありがたかった。こうして厳しい現実にやられたけど生きる選択をしていられるのは間違いなく君のおかげなんだ。ありがとう、この言葉をいつか言えるかな?言われても君は何のことかわからないだろうし、一歩間違えれば気持ちの悪い人間として映るだろう。それでも伝えられたらいいな……。
「で?今日はこの小学校に入るんだって?」
「不法侵入でしょっ引かれて終わりじゃね?」
「でもよ?思い出に浸りたいよね?」
「それはまぁ、そうだけど……。」
「なら、行こうぜ!」
「あっ!?この……馬鹿!!?」
僕が一人で勝手に感傷に浸っている間に一緒に来ていた友人たちは校門を乗り越えて校舎に走っていく。その後ろ姿を見て当時の光景が思い出されてそして重なる……。ある晴れた日の休み時間、男数名がボールを持って走り出してそのあとを行く女子数名とその光景を眺める最後尾の僕と、一人にしないように隣にいてくれた彼女……。思い出は色褪せないって言うけれど、歳を重ねて気づかされた。その言葉の重み深みに……。僕はそんな彼らの後を追いかけようと同じように校門を乗り越えて走り出す。その時耳元で誰かの声が聞こえた。『見つけた……。』その言葉で僕は足を止めて辺りを見渡す。辺りにいるのは先に行ってしまった友人たちだけ。僕の周りには誰もいない。一体……、今の声は誰が……。少しの不安が残るがとにかく今は友人たちの元に行こう。そう考えたとき、視界がぐらつき、僕はそのまま意識を手放してしまった。
次に目が覚めると僕はどこかの教室にいた。いつの間にか校舎内に入ったのか?そう思うが直前の記憶は確かに外に居て、校舎に近づいてすらいなかった。そのため、教室にいるのがおかしいのだ。超常現象に襲われ頭がパニックになり変な汗も流れる。過呼吸になり胸が苦しくなるが何とか深呼吸を繰り返し落ち着きを取り戻した頃、自分以外の人間、つまるところ友人たちの安否を確認するためにスマホを取り出し連絡を試みる。が、なぜか圏外になっており連絡はつかない。不安ではあるが、今起きていることを確認する必要があるため僕は教室を出ることにした。
立ち上がり教室内を見渡すと教壇に一枚の紙が置いてあった。それを手に取り紙を見るとそこにはただ一言だけ『私を見つけて』それだけが書いてあった。僕はこの字を知っている。同い年ながらきれいな字を書くが、どこか丸みのある女の子らしい字は僕がひそかに想いを寄せていた彼女『ユメカ』その人なんだから……。私を見つけて、そんな言葉が書かれたこの紙を僕は折り畳みポケットにしまった後、一度教室を出ることにした。彼女を探すために……。