夏休み、おばあちゃん家へ出かけた
電車に揺られながら田舎を感じさせる景色は懐かしいが、何処か不穏だった
家に入り、三角に切られたスイカを食べた
甘い汁と冷たい食感が猛暑を和らげる
やる事もないからボールを持って、靴を履き、ドアノブに手を掛ける
「おばあちゃん、サッカーしてくるね!」
そう言い残したものの田舎の公園に人がいるはずもなく一人で散歩をすることにした
少し歩くと、開けた林の中に鳥居が設けてあった
幻想的なその空間に足を踏み入れると、寒気に襲われた
怖くなった俺は、鳥居から出ようと後ろを向く
(なんか可笑しい逃げないと…)
霊感など無い俺にも分かった。
此処は、ヒトが立ち入ってはいけない
「自分どこ行くん?」
手を伸ばすと、鳥居から知らない人が出てきた
空色の眼と水色の髪をした綺麗な顔立ちの人だ
「え、」
その人は、空虚な瞳を細め、物珍しそうに俺の方を見る
「綺麗…、((ボソッ」
「!?」
水色の着物を纏った姿は、まるで神様の様だ
先程までの悪風さえ、この人が来てから最初から無かったみたいに止んだ
「あ、その..あんまり綺麗だったからつい…..」
「ふふっ、おおきに」
「君、可愛ええね」
「かわいい?!」
「w僕の名前、氷織 羊や,よろしゅう」
「えッと氷織お兄さん?」
「おん、君は〈♪ テーンテンテンテーンテン ♪〉
氷織お兄さんが何か言いかけた時、4:00を告げる放送が流れた
「あ!早く帰んないと!!」
「ちょ_
「ばいばい!氷織お兄さん!」
タッタッタッ
「チッ、後少しだったのに,まぁ今夜迎えに行けばええか」
潔は知らなかった。
自分が去った後、光を無くした空色が鳥居からナニカを見下ろしてる事を…
❖
「おばあちゃん!ただいま!」
おばあちゃん家に帰り、夕飯の支度を手伝う
テーブルにお皿を並べていると
〈バリ ンッ!!〉
青い陶器の茶碗が飛び散り、おばあちゃんの足に刺さる
そんな事は、どうでもいいと言わんばかりに
破片を踏みながら、おばあちゃんが近づいて来る
「よっちゃんッ!これ何処で付けてきたの?! 」
おばあちゃんは俺の肩を勢いよく掴み、
足、手、首に巻き付けられた黒い鎖の痕を恐ろしい形相で睨む
「よっちゃん?!何があったの?」
騒ぎを聞きつけて、母さんと父さんが駆け寄る
しばらく三人で話ていて、 俺は大きい寺に連れられた
白い衣を着たおじさん達に囲まれ、本堂に入る
「よっちゃん今日、何があったか教えてくれない?」
今日あった事を全て伝えると周りの人達がどんどん青ざめていく
おばあちゃんは、泣きながら事情を話した
俺が行った鳥居には神様が居て、普段は悪気で人を近づけないが、気に入った人間を魅了して
アッチへ誘うらしい。攫うには名前を知る必要があり、聞けなかった子供には目印として鎖を巻き付け服従させる。
「良い?よっちゃん」
「4:00になって、おばあちゃん達が来るまで扉を開けちゃ駄目だからね?」
きしむ音を立てて寺の扉を閉める
部屋にあるのは、布団と時計、後で食べる筈だったきんつば
蝋燭の明かりだけで 保たれている部屋は、薄暗く不気味だ
3:45
(後、15分!)
時刻を確認した途端
(ゾワッ!!)
「ヒッ!」
急に寒気がして、蝋燭の火が消えていく
あの鳥居と同じ悪風
〈キシッ キシッ〉
嫌な音を立てながら、足音が近づいてくる
真っ暗な空間で声を殺す
「よっちゃん」
恐怖の中で優しい声が聴こえた
「お母さん?」
「そうよ、早く扉を開けて」
暗闇、恐怖、恐ろしい要素は沢山あったのにあの声を聞いた途端、 全て忘れた
まるで、あの時の氷織お兄さんの様な…
「ハッ!」
我に帰りよく見ると、知らないうちに扉に手をかけていた
「ぉ…お母さんじゃない,」
「嗚呼、バレてしもた?」
その声は、お母さんの優しい声ではなく、氷織お兄さんの,でも あの時より低い
怖い声色だった
「ごめんなァ、でも、こうでもしないと君、 出てきいひんやろ?」
「…」(怖い)
「僕、君の事 好きなんよ」
「…」(嫌だ)
「せやから、
「ヒッ,,,」
「開けろ」
「ゴクッ」
(どうしよう怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
氷織お兄さんが怖いお母さんに会いたい…だから
「い、*嫌だ*」
「…」
「俺は、まだ皆と生きて、一緒に居たい!」
「…なら」
〈ドサッ〉
「君の周りを全員殺したら、僕の物になってくれるん」
「え,,,」
〈ぴちゃ〉
足に何か当たっている。
鉄の匂いを帯びた、生暖かいドロドロしたナニカ
「「ょっちゃん…」」
「お母さん…?」
「あ〜あ、早く出てこないから、こないな事になるんよ」
そっか
〈ぎィィ〉
「おかえり、世一君♡」
潔世一が現世で最後に見たのは、 赤い着物を着た空色の微笑みだった
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