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翌日から真貴君は普通に僕に声を掛けて来てくれた。
『詩弦、はよ』
「真貴君、おはよう、
昨日、あの後«恋人»のこと
抱き潰してない?」
僕がふざけて言うと笑った。
『流石の俺も平日にはヤらねぇよ(笑)』
確かに一颯さんの欠席理由が
{真貴君に抱き潰されたから}じゃ
洒落にならいもんね。
「そっか、疑ってごめん」
『思ってねぇだろう?
まぁいいけどよ。
それよりは、昼飯一緒に食わねえか?
⟦一颯が‘三人分’の弁当を
作って来たらしいんだ⟧』
それは断ったら失礼だよね。
「いいよ、でも僕買い弁だから
食堂付き合ってくれる?」
一颯さんは料理もできるんだ。
『わかった、んじゃ四時間目が
終わったら食堂行って詩弦の弁当
買ってから中庭行こうぜ』
「ありがとう」
そんな茶番劇がちょうど終わる頃に
担任の一颯さんが教室に入って来た。
毎日のことながら|HR《ホームルーム》中に
静かなことなんてあったためしがないけど
一颯さんは気にしていないのか
皆が聞いていようと聞いてなかろうと
その日の必要事項を話している。
目が合うと僕にだけわかるように笑った。
一瞬でいつもの|表情《かお》に戻すとそのまま教室を出て行った。
*——————*
一時間目は数学で二時間目は理科と理数続きで
三時間目は現代社会だった。
四時間目の授業の用意をしていたら隣の席の
穂積さんに話し掛けられた。
「ねぇ野山君、今朝七尾君と話してたけど
いつから仲良くなったの?」
「昨日の放課後からだよ」
理由はあえて言う必要はないよね。
「そうなんだ、七尾君って
ちょっと怖いイメージがあったから
野山君と話してるのを見て驚いたちゃった」
真貴君は見た目不良っぽいもんね(笑)
「あの髪色とちょっと目付きが悪いから
怖そうだけど話してみると普通だよ」
一颯さん限定のドSだけど
話していると普通なんだよね。
『詩弦、聞こえてんぞ』
実は斜め後ろに真貴君が居るのは知っていた。
「え!? 七尾君!?」
あはは、穂積さんが驚いてる。
『目付きが悪いのは本当じゃん』
偶然知っちゃったけど優しい|表情《かお》も知っている。
『元からだっつうの』
まぁ、あの|表情《かお》を見れるのは
本来、恋人の一颯さんの特権だろうからクラスの皆は知らなくていい。
そんな話をしていたら本鈴が鳴り
四時間目の国語を無事に終えて鞄から財布とスマホを
取り出して真貴君の席に行った。
「真貴君、食堂付き合って」
『そうだったな、んじゃ行くか』
二人で教室を出た。
食堂に着いて自販機で真貴君が冷たい紅茶とブラックコーヒーを、
僕は冷たい緑茶とおやつにとチーズドッグを三個買って
旧校舎二階の空き教室に向かった。
「一颯さん、今日は|HR《ホームルーム》以来だね」
空き教室のドアをきっちり閉めてから口を開いた。
午前中に英語の授業はなかったからね。
『そうですね、座ってください』
教師が生徒二人に‹‹敬語››で話つつ椅子を引いている
というなんとも不思議な光景はあの頭かっちかちの年功序列が当たり前で
男尊女卑も甚だしい教頭が見たら卒倒ものだろう。
「ありがとう」
お礼を言うとにっこり笑ってくれた。
『どういたしまして。
さて昼休みは短いですから早速食べましょう』
机の上に並べられたお弁当はどれも美味しそうだ。
「これ一颯さん一人で作ったの!?
大変だったでしょう……」
『高校入学とともに一人暮らしを始めて十五年ですから
ある程度のルーティンはできていますし
前日から下拵えをしていた物もありますから
そう大した手間ではないんですよ?』
な、成る程…… 凄い!!
「そうなんだね、作って来てくれてありがとう」
『いえいえ』
取り皿まで用意していてくれた一颯さんに感謝しつつ
さっき買っておいたチーズドッグを二人に渡して
おやつまで食べ終わる頃に予鈴がなった。
『私は先に戻りますけど、
五時間目には遅れないでくださいね』
二人で間延びした返事をした。
適当な返しをしているけど五時間目には遅れるわけがない。
だって五時間目は今一緒に居る
一颯さんの英語なんだから。
あの後、勿論五時間目に遅れることはなく
六時間目の世界史を適当に聞きつつ放課後になった。
皆が帰った頃、一颯さんと三人で
他愛もない話しを一時間くらいして真貴君と教室を出た。