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5.逃げ出したい
「待ってよ__もう疲れたよ〜…」
「もうすぐ、もうすぐ着くんだ。」
「着くってどこに?もう帰ろう…よ。」
記憶はない。ぼやけて歪んでる。
でもうっすらと心残りがある。
あの日見た景色を思い出せないことだ。
「…夢。」
俺が糸師凛を思い出すことでみんなが不安気な表情を見せた。
母さんと父さんは常に思い出したかを聞いてくる。
凪は潔の話をすると怒った。
玲王は少しだけ距離を取られた。
凛という存在が分からなくなっていた。
俺にとってなんだったのか、もう…。
「忘れたの、?」
「…ッえ。」
頭が急に痛んだ。
脳が揺れるように衝撃を与えてくる。
「なに、これ…痛いッ」
「俺はまだ覚えてるよ。ノアみたいにボールを蹴れなくて泣いてた俺を引っ張ってくれた。」
「誰…だよ。」
ふと頭の中に幼少期の自分が見えた。
「思い出すのは怖い?それとも今の環境に甘えたい?凪が言ってたとおり自己満足の為に求めるの?」
この俺が何を知っているのかは知らない。
でも、こいつに頼れば…また思い出せる?
「教えてくれ、お前は糸師凛の何だ?」
小さな手で俺の手を握って微笑む自分。
「必ず俺はまた…何度生まれ変わってもね。」
「また?」
俺の記憶はそこで途絶えた。
「凛…は、辛くねえのかよ。」
これこそ自意識過剰だろうか。
俺がもしただの友達だったなら、あんな顔するはずない。
じゃあなんで?
なんで俺は記憶のない糸師凛のことを思い出そうとしているんだ。
なんでこんなにも寂しい気持ちになるんだ。
『いさ……に…だ、よな……す…き…だ…』
「糸師…凛くん?」
『今日…おれ…が……から』
「待って、凛くん。車が…ッ」
『え、…さぎ…ぎ…い…いさ…ぎ?』
急にとてつもない吐き気に襲われた。
心拍数が異常な数値を出す。
頭が割れそうだ。耳鳴りのせいで音が聞こえない。
痛みに耐えるために目を開けられない。
手足が痺れる感覚がする。
怖い、痛い、辛い、逃げたい。
「潔さん、聞こえますかー?落ち着いてください。大丈夫ですよ〜、潔さーん!」
うっすらと開けた視界の先で看護師さんが慌てていた。
そうだ。この記憶は、事故の…もの?
「潔、頑張って。もうすぐ担当医な人がきてくれるよ。大丈夫、大丈夫だから。」
凪…?
凪の暖かい手に両手が包まれる。
「もう、いいんだよ。自由になればいい。潔のしたいようにすればいい。だから、今は耐えるんだ。」
表情がわからない。
困った顔をしている?弱々しい声で俺の名前を何度も呼んでくれる。
困ったな。この光景に見覚えがある。
なんで、凛くんが見えたんだろう。