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6.変わりたい心
「なんだよ、仕事に集中しろ。」
「潔が事故の記憶を思い出したって。」
「ッだから、なんだよ。」
「まだはっきりとしてないけど凛ちゃんが出てきたって話してるらしい。」
動揺が隠せずに針に糸が通せない。
今更思い出したからなんだというんだ。
俺のことを思い出した訳ではないんだから。
「気にしてんだろ。俺がこんなだから。余計な迷惑かけた、悪りぃ。」
「違うんだよ、凛ちゃんと潔には仲良くしてほしい。まだ、諦められないんだよ、俺が。」
「…蜂楽、もう終わったんだ。俺はもうすぐで忘れられるし潔が苦しむ事もなくなる。それ以上に何を望むんだよ。」
蜂楽は納得していないのかまだ不安気な表情を浮かべている。
俺がちゃんとしないといけない。
凪の言う通り、潔には幸せになって欲しい。
その幸せに例え俺がいなくても。
「だから居なくなった、なんて蜂楽に言わせやがったんだな。ほんと、焦った…」
「玲王…ッ」
「俺が呼んでたんだ。どの選択肢が正しいのか俺には決断できなかったから。」
俺にだって分からないことだらけ。
決断のしようがない。
「潔は。潔はどうしてる?」
「…やっぱり会いに行こう。潔もずっと気にかけてた。凛はどうしてるかってな。」
「凛ちゃん、俺さ凛ちゃんが好きだよ。」
蜂楽が俯いたままそう呟いた。
「冗談なんかじゃない。ずっとずっと前から好きだった。潔も同じくらいに好きだよ。」
「今言う話かよ…」
「好きな人達にはさ笑っててほしい。思い出せなくて良い。一からやり直せるんだから。」
「一から…やり直す。」
そうか。俺は過去の記憶ばかりに縋ってた。
これからのことなんか考えてなかった。
潔が思い出すことしか頭になかったんだ。
逃げてたのは俺だった。
「玲王、蜂楽」
「…凪のことなら心配いらね…って、凛!?」
「凛ちゃんのそんな顔も初めてだ…笑」
「まだ、間に合うよなぁ…?」
泣いたのはもう何年ぶりかわからない。
兄ちゃんを空港で見送った時。
兄ちゃんに世界を見せられた時。
潔に負けたと実感した日。
潔と行った映画で抱き合って泣いた日。
俺の人生はいつも人に縛られてばかりだ。
「行こっか、凛ちゃん。時間はこれから先いくらでもあるんだから。」
蜂楽が手をそっと差し出した。
目が少しだけ赤い。俺の為に考えてくれたのだろうか。
「外に車用意してもらったから、乗れよ。」
玲王が扉を開けて外に出た。
その後に続こうとする蜂楽の背中に呟く。
「ありがと、廻。」
聞こえないように小さな声で。
蜂楽は止まらないまま歩き続けている。
聞こえていなかったのだと安心した。
全てが終わったらちゃんと言葉にする。
幸せになるまではまだお預けにしておこうと思った。
「玲王、早かったね。」
「あぁ、だな。行かなくていいのか。」
「俺に言ってるの?なら分かるでしょ。潔が選んだ奴のこと、認めるしかできないよ。」
「凪、やっぱお前らよく似てるよ。」
そっと廊下の椅子に座っている凪の頭を自分のお腹へと寄せた。
「…俺泣いてないよ。」
「いいんだよ、落ち着くだろ。」
「……うん、落ち着く。」
凪はまだ幸せになる未来が残ってる。
誰が何と言おうと。
だって俺が見つけた宝物なんだ。
俺の目に狂いなんかあるわけない。
「凪、お前は強いよ。」
「俺もそう思う。」
「言うようになったな、この〜っ笑」
凪の頬を優しくつねると痛がりながらも笑っていた。
そっか、これも幸せなんだ。
未来なんかじゃなく、今が幸せ。
凛、お前にとっての幸せが見つかりますように。
「蜂楽は行かねえのか」
「俺は待ってる。久しぶりに休みだし笑」
「ブラックで悪かったな」
「怒ってる!?笑ほら、いってらっしゃい。」
「…いってきます。」
蜂楽が頷いたのを確認すると病室の扉を開けた。
「…寝てんのか。潔。」
静かな病室に差し込む光が潔を包む。
進めた足が自然と軽く感じた。
もう怖くはないから。