コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「――これが、トゥルーエンドに向けた作戦の全貌だ」
渡慶次は3階の特別室で、手に付いたチョークの粉を叩きながら黒板を見上げた。
「問題は、上間がさっき言ったものを持ってるかってとこなんだけど……」
そう言いながら彼女を振り返ると、他のメンバーもつられて上間を見つめた。
「……ええと」
上間は眉間に皺を寄せながらポケットの中を漁った。
「……こ、こんなのしかないけど、いいのかな?」
皆でそれをのぞき込む。
「うーん……」
「何よ。文句?」
唸った渡慶次を上間が睨む。
「賭けだね」
知念が言ったところで、
「……おい」
黒板に片手を突いて書き終わるのを待っていた比嘉がこちらを振り返る。
「なんだこの作戦は。俺の負担が重すぎるだろうが!」
彼は向こうの世界と同じことを言うと、同じ形の八重歯を光らせた。
「文句言うなよ。これは俺と知念と比嘉の3人で考えた作戦なんだから」
「じゃあお前がこのポジションやれや!」
言いながら比嘉が黒板に書かれた自分の名前を叩く。
「俺には無理だから言ってるんだろ」
「お前はいつもそうだよな。自分だけ安全地帯に立ってよ。嫌なことは人にさせやがって」
「なにぃ?」
渡慶次は比嘉を睨み返した。
「俺は帰ってこないって選択肢もあったんだ!あっちでは地味ながらも平和だったし、上間だって……」
「私?」
上間が目を見開く。
「と……とにかく!ちゃんとこうして情報持って帰ってきたんだから文句言うなよ。俺がもしContinueしなかったら、玉城も照屋も存在さえ消されたんだぞ!」
「――――」
2人の名前を出した途端、比嘉は苦虫を嚙み潰したような顔をしてそっぽを向いた。
「1個質問。いいかな」
黒板をひときわ首に角度をつけて見上げていた知念が、小さな手を上げた。
「上間さんの作戦がうまくいったとしても、新垣はゲイシーを破壊する可能性があるんじゃないの?それはどうやって防ぐの?」
「それな」
渡慶次はわざとらしく腕を組んだ。
「ハッキリ言って、新垣を説得するのは難しいと思う。だからといって知念に新垣や大城を押さえつける力もないと思うし……」
「なにそれ。全然ハッキリ言ってないよ」
知念は渡慶次を見上げた。
「は?」
「ちゃんとハッキリ言ってよ。いっそ新垣のことは舞ちゃんを使って殺していいって」
「……ッ!」
渡慶次は目を見開いた。
「……虫も殺さねえような顔してえげつねーこと言うなよ、てめーは」
比嘉が呆れたように笑う。
「言ってよ。渡慶次がちゃんと言って」
知念がこちらを見つめる。
試すように。
引き出すように。
渡慶次の本心を。
本音を。
本性を。
「……それじゃ、ダメなんだ」
渡慶次は知念をまっすぐに見つめた。
「俺は元の世界に全員で帰ったら、まず初めに、アイツと仲直りがしたい……!」
「――渡慶次くん……」
後ろにいた上間が呟く。
「……けっ。くだらねえ」
隣りにいる比嘉が鼻で笑う。
それでも渡慶次は知念だけを見つめて言った。
「お前ともだよ。知念。半年前、みんなの前でお前を、お前の母親を、侮辱して悪かった」
「…………」
頭を下げた渡慶次に、知念が目を見開いた。
「これ。あっちのお前から預かった。渡せばわかるって」
渡慶次はナップザックを知念に翳した。
「…………」
知念はそれを受け取ると、紐を引っ張り左右に口を開いた。
「――なんだよ?何が入ってるんだ?」
比嘉が首を捻る。
「…………」
知念はそれを見下ろし、大きく息を吸うと、やがて紐を引き口を閉じた。
「ありがと……」
知念は渡慶次を見つめ、そして自分の首から何かをとると、渡慶次の首にかけた。
「なんだよ、この黒いカード」
渡慶次が眉間に皺を寄せると、
「お守り」
知念は目を細めて笑った。
――笑った……。
呆然としている渡慶次の目の前で、彼はナップザックを背負った。
「渡慶次。号令」
知念が小さく言う。
「え?」
「言って。渡慶次がちゃんと」
「……あ、よし……!」
渡慶次は一歩引いて、全員の顔を見つめた。