コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ありがとうございましたーっ!!」
ギターボーカルの女性アーティストが叫ぶ。それと同時にライブハウスの熱気もまた一気に熱くなった。いつも後ろから見ている客の汗は今日は少し多かった気がする。そんな様子を見ていた私はふと違和感を持った。帰らない。この女子大学生バンドはいつも演奏が終わったらすぐに帰って近くのファミレスで打ち上げをするのが一環だ。なんて、どうしてバイト生がそこまで知っているんだろう。いや、自身のSNSで投稿しているから、か。姉の日野森雫からオススメされた女子大学生バンド・STARS 圧巻の演奏力でいつも私を含むお客さん全員STARSの演奏を楽しんでいた。今日は一段と演奏の腕前をあげていた。全員楽しそうに歌って、全員楽しそうに演奏している。その姿は少しLeo/needと似ていた。ギターボーカルの子が1歩前に進んだ。綺麗な姿勢のままマイクを持ち口を開けた。少し後ろを見るとベースの子が少し涙ぐんでいた。嫌な予感がした。
「次の演奏を機にSTARSは解散します。」
さっきの熱狂は一気に冷めた。だれひとり、物音は立てずだれひとり、喋らなかった。ずっと下を向いていたドラムの子が顔を上げた。
「実は無理を言ったんです。」
透き通った声が閑静のライブハウスに響き渡る。
「この4人で…バンドできないの、すごく悔しい…けどっ…けど!」
声が震えていた。よく見ると涙も頑張ってこぼさないように必死に我慢している。
「けど…最後の1曲くらいは3人で満足できる曲がいいね。ってこの場を設けてもらいました。最後の1曲は…なんだっけ、あいちゃん」
あいちゃん はギターボーカルの子だろう。わざとらしく話を振った。
「最後の1曲は私たちの始まりの曲でした。皆さん!最後まで楽しんでいってください!」
終わった。気づけばみんなボロ泣きしていた。最後の拍手喝采は今までにないほどに鳴り響いていた。
応援していたバンドが解散しました。なのでバイトの仕事に影響しました。 という訳でもなく目立ったミスもなく無事に最後までやり遂げた。
「お疲れ様でした」
小腹が空いてしまったからファミレスに寄った。STARSは打ち上げをしたのだろうか。していたとしてもここにはいないだろう。あんなに明るかった空ももうあっという間に暗くなっている。あのライブから5時間も経つ。5時間も3人でファミレスにいるとは考えられない。いや、咲希とかなら余裕なんだろうな。想像していたら自然と口が緩んでいるのを感じた。
「1名様でよろしいですか?」
どうやらテーブル席しか空いていなかったらしいので贅沢に空いている席を使わせてもらった。隣の席に自分の荷物を置いてメニュー表を取ろうと手を伸ばした瞬間聞き覚えのある声に動きが止まった。
「いやだ…涙が止まらないよ…」
すすり泣くこの声にハッとして私は振り返った。STARS ドラム担当のマイがいる。その隣でマイの背中をさすってくれているギターボーカルのあい。その前の席に座って2人の様子を涙流しながら見ているベースのトラ。
「STARS…?」
続く