「……ちが……これは……」
隠そうとする瑞野の手を抑えた。
焦っているのか顔を歪ませている。
こうして表情筋が動くと良くわかる。
左右で顔の引きつり方が違う。
瑞野の右頬を掌で包む。
やはり腫れている。
そのまま軽く引っ張る。
唇が切れている。
つい先日も、彼の頬には殴られた跡があった。
そのとき瑞野は、
『ちょっと駅で絡まれたから、イライラして殴ったら、倍になって返ってきただけー』
と機嫌悪そうに言っていた。
あのときも彼は夜にふらりと学校に現れ、様子がおかしかった。
今日と、同じだ。
だから今度は久次の方から仕掛けてみた。
教師とあるまじき行為だとは思いながらも、“ハグ”を促した。
彼を抱きしめるふりをして、彼の身体を触った。
始めは、腹。
続いて、腰。
そして、背中。
痛がる素振りは見せなかった。
しかし撫でた頭に異様な腫れを見つけた。
その感触を確かめるために強く抱きしめると、今度は自分よりも明らかに温度の高い頬に触れた。
「……もう、駅前で喧嘩したなんて誤魔化されないぞ」
震える瞳を睨む。
「あいつにやられたのか?」
その薄い肩を掴む。
「谷原に、やられたのかって聞いてるんだよ!」
つい責めるような口調になる。
「あいつは何なんだ!自分の教室でヌードモデルをさせておいて、生徒に手を出されたお前をなんで殴る?」
「…………」
「俺が、ちゃんと話を付けてくる……!」
「……やめて」
瑞野は小さくそう言うと、久次にしがみ付いた。
「やめて、クジ先生!」
「なんで!!」
「…………」
「お前とあいつは何なんだ!どういう関係なんだ!」
「…………」
瑞野が顔を歪ませながら、唇を噛む。
「……お前が言えないなら、あいつに直接聞く」
久次はしがみ付く瑞野を振り払い、スラックスから携帯電話を取り出した。
電話帳を開いたところで、再び瑞野が抱き着くように腕を掴む。
「全部話す!話すから……!」
その大きな目は潤み、桃色の唇はぷるぷると震えている。
「だから、あいつに電話しないで……」
久次は携帯電話を握りしめながら、その大きな瞳から流れ落ちる涙を見つめた。
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