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「去年の記録なんてなんのために見なきゃいけないんでしょう…」
清野がため息をつく。
「会長と違って俺たちは実際に参加したんだから、改めて見る必要ないと思うんですけど」
「まあまあ」
加恵が笑いながら清野の肩を叩く。
「会長、すっごい文化祭楽しみにしてるみたいだから、付き合ってあげようよ!」
「そうそう。それに、先輩のカメラワークはすごいから勉強になるし!俺も今年は張り切って撮るんだ!」
結城がガッツポーズを作る。
「―――はあ」
諏訪は欠伸をしながら三人に続いた。
先頭にいた結城が視聴覚室のドアを開けた。
「―――あ」
暗い部屋に浮き上がるスクリーンは、白と黒の碁石が並ぶ碁盤のアップで静止していた。
「――会長。もう始めてたのぉー?初めから観ましょうよー!」
最前列に座っている右京に寄っていった結城がギョッとして足を止める。
「は……蜂谷も一緒?」
暗闇の中で碁の模様に照らされた右京が振り返る。
「……ああ、こいつも、文化祭に参加する気になるかと思って観せてたんだけど…。映像の揺れに酔ったみたいで……」
「だからって、床に寝る……?」
顔を引きつらせている結城の後ろから回り込む。
「――――!」
足元に蜂谷が転がっていた。
諏訪は素早く右京に目を走らせる。
ネクタイが雑に結ばれている。
昼休みに廊下ですれ違ったときには普通に結ばれていた。
「―――――」
次に机のちょうど下あたりに転がっている蜂谷に目を移す。
うつぶせに倒れているが、腕が見えない。
腹の下?
……いや、違う。
腹の下に腕があるんじゃない。
腹を抱えて倒れこんだのだ。
諏訪はおもむろに右京の横に行くと、その腕をぐいと引っ張った。
「―――な、んだよ…?」
右京がきょとんと目を見開く。
―――手じゃない。じゃあ、足か?
膝に触ろうとして目に股間が入った。
――なんでこいつ……。
「…………?」
右京が大きい目でこちらを見ている。
「諏訪君」
後ろから加恵の声がした。
「こっちで観よ?」
少し距離をとった後ろの方の席に、清野と結城に挟まれて座った加恵が手招きをする。
「―――あ、ああ」
諏訪は右京の腕を離すと、彼らのもとへ向かった。
座りながら、眉間にまだ皺を浮かべてこちらを振り返っていふ右京を見つめ返す。
―――何が何だかわかんないって顔してるな…。
俺の方が聞きたい。
お前たちこの部屋で、俺たちが来る数秒前まで何をしてた?
「会長―。再生押してー」
結城が机に頬杖を突く。
「あ、ああ」
右京が再生ボタンを押す。
よろよろと起き上がった蜂谷が右京を睨みながら、少し離れた席にやっとのことで腰を下ろす。
(……ナンデアンナオトコニ……)
―――イライラする……。
諏訪は背もたれに体を沈めた。
もうバラしてやりたい。
打ち明けてやりたい。
こいつに……。
みんなに……。
何も、かも……。
……全て、全部。
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