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「何?感動したって?」
映像が終わると、右京はわざとらしく蜂谷を振り返った。
言われた蜂谷は眉間に皺を寄せながら黙っている。
「―――文化祭の記録映像って感動しますっけ?」
清野がボソッと言う。
「俺は感動したけど!」
言う結城を清野は睨んでため息をついた。
「じゃあ、ちゃんと文化祭出るよな!な!約束な!」
一方的に話を進めながら、右京は蜂谷の腕を叩く。
―――って……硬っ!
ブレザーの時はよくわからなかったが、こうして半袖になってみるとその腕の逞しさと硬さがわかる。
……何だこの腕…。鉄板でも入ってんのか…?
皆に見えないように触っていると、
「まあ、文化祭、出てもいいけど…」
蜂谷がその手を握った。
「会長もちゃんと約束守ってよね?」
「――――」
「今度は途中で終わるのは許さねぇから…」
右京はその少し垂れた目を睨んだ。
「もうビデオ鑑賞は終わったんだろ。じゃあ、生徒会室戻ろうぜ」
諏訪が右京の前からリモコンを取り、照明をつける。
ジーッと音が響いて暗幕が開く。もう夕暮れ時だ。
「そういえば、明日までだけど、保健所への書類への記入さ、各実行委員には言ったのか?」
諏訪が右京に聞く。
「あ。忘れてた」
「……朝イチで各教室回れよ」
「はぁ?22クラス?」
「当然」
こちらを見下ろしてくる諏訪の目は普段通りだ。
「鬼っ!」
だから右京もいつも通り、彼を睨んだ。
「じゃ、いい?俺帰って。……おっと」
蜂谷が立ち上がる。わざとらしく腹を抑えてよろけて見せる。
「………………」
軽く睨むと口の端で笑いながら鞄を持ち上げた。
「じゃあね。会長。また明日」
言いながら後ろの席で小さくなっている3人を一瞥すると、蜂谷は視聴覚室を出ていった。
「いやあ、よかったよかった。これで一つ仕事が片付いた!」
多少大袈裟に笑って見せると、諏訪は小さくため息をつき、プロジェクターの電源を切った。
◆◆◆◆◆
結城と清野が前を歩き、その後ろを右京は加恵と諏訪に挟まれながら歩いた。
「そういえば、右京君、本当にやるの?女装カフェ」
「あー。まあ、そうみたい」
右京は目を細めて言った。
「なんか女子たちだけで衣装とかメイクとか決めてるらしくて、反対できない雰囲気満載で。もうあんまり耳に入れないようにしてる…」
言うと加恵は笑った。
「お客様として行くね!」
「おう!サービスするぜ!」
横で聞いていた諏訪が、またため息をつく。
「諏訪は出ないの?イケメンカフェ」
「……はあ?」
こちらを見下ろす顔に右京は鼻で笑った。
「まあ、イケメンじゃないと出れないか…」
「なんだと、お前!」
「まあまあ」
加恵が笑う。
「諏訪君だってイケメンじゃない!結構後輩たちには人気あるのよ。ねえ?」
その言葉に驚いて諏訪を見上げる。
「―――これもイケメン、かぁ?」
「お前馬鹿にしてんだろ」
諏訪が睨む。
「いや、永月もイケメン、蜂谷もイケメン、んで諏訪もイケメンとなると、俺、なんかイケメンの定義がわかんねえな」
右京は笑った。
「―――右京君は、かっこいいとは思わないの?」
加恵が驚いて聞く。
「うーん?わかんない。イケメンってのが」
右京はヘラヘラと笑った。
「それにかっこいいってのは、顔じゃないだろ」
「…………」
諏訪が何か言いたそうにこちらを見下ろした。
と―――。
「会長…!」
先に生徒会室に入っていった結城が飛び出してきた。
「大変だ…!」
いち早く諏訪が走り出した。
加恵が続く。
右京もついていくと―――。
生徒会室の黒板に、大きな文字でメッセージが書かれていた。
「――なあ、それ……もしかして使用済みのコンドーム……?」
結城が末尾に貼られたそれを指さした瞬間、
「きゃあああああ!」
加恵が顔を覆って蹲った。
「―――ふざけやがって……!」
諏訪がデスクに置いてあったティッシュを数枚掴みとると、セロテープで黒板に貼りつけられていたそれを剥がし、そのまま丸めてごみ箱に投げ入れた。
「―――新体操部М?」
結城が黒板に近づく。
「嫌がらせにしちゃ、たちが悪くないですか」
清野が眉間に皺を寄せる。
「……会長」
結城がつぶやき、皆が振り返る。
右京はその黒板を黙って眺めていたが、やがてズボンのポケットに手を突っ込むと、ふっと笑った。
「……相当俺と遊んでほしいらしいな。新体操部のМちゃんは」
諏訪が目を細め、加恵が手から顔を上げる。
「楽しみにしてくれてんだから、期待に応えてやろうじゃねぇか」
清野が眼鏡を上げ、結城が息をつく。
「上等だ。遊んでやるよ。新体操部のМちゃん?」