コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その日の夜、うちは眠る前に何度も佐野くんの言葉を思い返していた。布団に潜り込んで目を閉じても、「小夏のままでいい」という声が耳に残る。なんだか落ち着かない。奈子には「社交辞令やって」と言ったけど、本当は少しだけ期待している自分がいるのかもしれない。
翌朝。学校に向かうバスの中、窓の外を眺めながらうちはため息をついた。今日もまた、うまく馴染めないんだろうな、と少しネガティブな気分になりかけていたその時。
「小夏!」
振り向くと、佐野くんが自転車を漕ぎながら、バスと並んで走っている。驚きすぎて、思わず窓を開けた。
「な、なにしてんの!?」
「お前の家、この路線やったんか。偶然やな。」
佐野くんはさりげなく言ったけど、その少し乱れた息遣いからして、偶然というよりは意図的にここを通ったようにしか見えない。
「はよ学校行け!」
そう言い返すと、佐野くんは「そやな」と笑って、自転車を加速させて先に行った。その姿を見て、私は胸の奥が妙に温かくなるのを感じた。
学校に着くと、佐野くんが教室で机に突っ伏しているのを見つけた。どうやら疲れたらしい。私は近づいて、彼の机を軽く叩いた。
「朝から頑張りすぎ。」
顔を上げた佐野くんは眠そうに目をこすりながら言った。
「お前、ちゃんと学校来れてるかなって思っただけや。」
「うちは子どもちゃうし、大丈夫!!」
そう言いつつも、心のどこかで佐野くんが自分を気にしてくれていることが嬉しくて、小夏はつい笑ってしまった。
「そういや、今日委員会の集まりあるん?佐野くんって、あの場でも黙ってるタイプなん?」
小夏が冗談っぽく聞くと、彼は少しだけ眉を下げて困った顔をした。
「黙っとるってわけやないけど、あんまり話したいとは思わへんな。」
「へぇ、そうなん。」
小夏は不思議そうに佐野くんを見つめた。彼は自分の意思を押し付けないし、人のペースを無理に崩そうともしない。そのスタンスが、周りに流されがちな自分とは正反対で、少し羨ましく思えた。
「でもお前が委員会入ったら、割とおもろいかもしれん。」
佐野くんが急にそう言って、小夏を驚かせた。
「なんでうち!?」
「お前、割と気ぃ使うし、空気読むのも得意やろ。」
淡々とした口調でそう言われ、小夏は恥ずかしそうにうつむいた。
放課後、帰り道を歩いていると、突然佐野くんがポツリと言った。
「小夏、無理して笑わんでもええから。」
その言葉に、小夏は思わず足を止めた。振り返ると、彼は真剣な目でこちらを見つめている。
「…わかってる。けど、みんなに嫌われたくない。」
そう答えると、佐野くんは少しだけ考え込むようにしてから言った。
「誰かに嫌われるのを怖がるより、自分が自分でおるほうが大事やと思う。」
その言葉に、小夏は胸がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えた。無理しなくていい、という佐野くんの言葉が、前よりも深く響いてくる。
家に帰ってから、小夏はまた奈子にLINEした。
**小夏**:「なぁ、佐野くんってさ、何考えてるんやろ。」
**奈子**:「え?なんかあった?」
**小夏**:「うちのままでいいとか、無理せんでええとか…そういうことばっか言うんや。」
**奈子**:「それ、普通に小夏のことちゃんと見てるってことでしょ!」
**小夏**:「そうなんかな…」
**奈子**:「佐野くんのこと、気になるん?」
**小夏**:「…まだわからん。でも、嫌じゃない。」
奈子の言葉に頷きながらも、胸の中のもやもやは消えない。ただ、佐野くんの言葉がこれからの自分を変える何かになるような気がしていた。