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霧深い廃村の夜、港と紗理奈は古文書を前にして儀式の準備を進めていた。
村の古老が残したという伝承の通り、契約を解くには「真実の言葉」と「覚悟」が必要だった。
「これが最後のチャンスだ、港さん」
紗理奈の声は静かだが、決意に満ちている。
「わかっている。家族を取り戻すためなら、何だってする」
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祭壇に古文書を置き、港は呪文の一節を唱え始めた。
「ホントニナーレ…ホントニナーレ…」
紗理奈も続き、二人の声が薄暗い廃屋に響く。
突然、空気が震え、壁の影から不気味な気配が立ち上った。
「……来た」
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影は形を変え、南の顔を模して現れた。
しかしその目は空虚で、冷たく光っている。
「お前は……南じゃない」
港は叫びながら、胸の中の記憶を呼び起こす。
「本物の南は、俺たちの中にいる。お前は偽物だ!」
影が嘲笑うように口を開いた。
「偽物? いいえ、私は“願い”だ。あなたの心の奥底から生まれた、忘れられた恐怖と希望の混ざり合い」
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港は影を見据え、静かに言った。
「俺は認める。君は俺の恐怖の産物だ。だが、だからこそ俺は君を許す。
南も樹人も戻してほしい。だがそれは、君の支配を受け入れることではない」
紗理奈が続けた。
「この契約は、恐怖を乗り越えなければ解けない。あなたが“真実”を受け入れれば、影は消える」
影は揺れ、形が崩れ始めた。
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「ホントニナーレ……」港と紗理奈が最後の呪文を唱えると、影は光の粒となり消えていった。
静寂が戻る。
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翌朝、港は病院に戻り、目を覚ました樹人の顔を見る。
彼の瞳には以前の闇はなく、純粋な輝きが戻っていた。
「パパ……ママは?」
港は微笑んだ。
「ママも、俺たちの中にいるよ。ずっと」
紗理奈は静かに、港に寄り添った。
「これで終わりじゃない。これからも、君たち家族は歩き続けるんだ」