「お一人ですかぁ?」
甘ったるい媚びた女子二人の声にうりはうんざりとした。
ようやく酷暑とも言われた今年の暑さも過ぎ去り、冷たさも感じるようになってきたこの頃。
うりはそろそろ秋冬物を買いに行くかと、馴染みにもなりつつある古着屋に足を運び、ついでにギターの弦を買ってきたところだった。
昼から出かけて、夕飯に合わせて帰るにも少し早い時間で、せっかく出てきたのに勿体無さを感じどうするかと悩んでいたところに逆ナンというカタチで声をかけられた。
秋の気持ちよさにサングラスやハットを着けていなかったのも要因だろう。
動画内ではチャラいキャラで売ってたりするけれども現実ではそこら辺で出会った人間とどうこうするような性格ではない。
「急いでるんで」
と断り適当にコンビニにでも入るが迷惑にも用事いつ終わるの? などと食い下がりながら着いてくる。
わざわざ買う必要もなかった飲み物を手にとりながらめんどくせぇえええと内心叫びながら、関係なくないとかあっそなどとかわしていく。
そんなこんなしているとコンビニの中の空気が少し揺れた。特に男性陣の。
なんだろうと視線が集まっている入り口を見れば、さらさらロングの見慣れたオレンジブラウンの女の子だった。
渡りに船だとすぐさまそちらへと向かう。
「あれ、うりじゃん」
「よぉ」
知り合いの男がいたのかとまたもや少しだけガッカリしたように空気が揺れる。背後にいる女子二人も含めて。
「学校帰り?」
「そうそう、友達とファミレスで課題やっつけてたんよ。そんで喋り過ぎたからのど飴買いにきた」
「いつももそれくらい喋れよ」
「いや、それはさ。マイクあるやん?」
うりといつも通り笑いながら会話をしているとえとは探るような女子二人の視線に気付く。うりとアイコンタクトをするとすぐにナンパだと察し、うりの腕に触れながら寄り添う。
「誰?」
「さぁ、知らん人」
「ふぅん」
えとは特に何を言うでもなく二人を見つめ続ける。美人は何も言わなくても迫力がある。周りからもえとと比較されるような視線が寄越されて女子二人はそそくさとそのコンビニを出て行った。
「はぁ、助かった。コンビニまで着いてこられた時にはどうしようかと」
「困るよねえこういうの」
お礼に飴買ってやるよとうりはえとが欲しかった飴を手に取りレジへと向かう。
「うりは何もいらんの?」
「撒くために入っただけやから。むしろ、余計な物買わんくて済んでよかった」
「私買わせちゃってるけどな」
「いやいやこれは必要なものよ」
「お互い様なのに。ありがとー」
「なんかえとさん用ある?」
「ポイントが5倍だから、パック買って帰りたいんよね」
「5倍はデカいな」
「だろー。うりは先に帰る?」
「いや、また捕まってもめんどいから付き合うわ。なんならえとさんの方が捕まりそうやけど」
「それは否定できんかも。一緒に来てくれると助かるな」
いいよと歩き出そうとするといい時間になってきて人が増えてきた。ぶつかりそうになるえとを肩から引き寄せる。
「ありがとう」
「人やべえな」
「この時間やばいのよな。夕飯食べてから帰る?」
「今日シヴァさんだっけ?」
「あー、そうかも。待って連絡板撮ってきたから」
「やるやん」
「やるだろー」
二人で画面を覗きこめば晩御飯担当はシヴァと書かれていた。
顔を見合わせてこれは帰らなければと決まる。
「お店あっちだから急ぐぞうり!」
「おうっ、任せとけよ」
意味わかんないと茶化しながら人混みを歩くが、普段から学校で出歩くえとと編集作業を担いほぼ在宅のうりとでは人混みを歩くスキルの差が大きい。
気を抜くとすぐ二、三人越しに離れていたりする。
「す、すまんえとさん」
「もー、人混み歩くの下手過ぎでしょ流石に」
仕方ないとえとはうりの腕にしがみついた。いわば、腕を組んでる体勢だ。
「こ、こ、これはさすがに近過ぎませんかえとさん」
「うり一人で歩かせたら夕飯までに間に合わないし。もはや介護だろこれは」
「介護」
えとがこっち、あっちと引っ張りながら歩くとスイスイと進んでいける。確かにこれは介護だなとうりも納得した。
お目当てのパックを手に入れるとまだ数分経っただけなので相変わらずの人混みで帰りも駅まで腕組み介護状態で行くこととなる。
うりも少し目が慣れて人とのスキマをうまく抜けられるようになってきた。
「うり少し歩きやすくなった」
「レベル上がったわ」
「電車もやばいかなあ」
「オレこの時間の電車乗らんのよね」
「結構ぎゅうぎゅうかも」
一瞬どうしようかと目を合わせたが自宅の可愛いカエルシェフを思うとやはり帰らなければなと改めて決意する。
ホームへと滑り込んでくる電車は案の定人がたくさんで分かれないようにとえとはうりを捕まえ直す。
カタンカタンと揺れるたびに体がしっかりとくっつくのがさすが互いに居心地悪くて最寄駅まで無言のままだった。
ホームに降りて開放感を味わうと、お互いにきっちりパーソナルスペースを取り直して思い切り伸びる。
「うー、疲れた」
「同じく」
人もまばらな地元では、くっつく必要もなく適度な距離を保ったままぐったりとシェアハウスまで歩いた。
「ただいまぁ」
「帰ぇったぞぉ」
家の安心感に二人は思わずため息を付きながらリビングの方へと向かうと、ダダダッとメンバーが集まってきた。
「え?」
「なにごと?」
のあとゆあんくんとたっつんはからぴちグッズが発売されたのを三人でショップまで見にきていた。
うりと出先が近かったのでもしかしたら会うかもねなんて話しながら。
帰宅ラッシュのピークに巻き込まれないうちに帰ろうとしていたそのときだった。
「あれ、うりやない?」
「ホンマやん、マジで出くわしたな」
「うりさんめずらしく何も着けてないからわかりやすいですね」
通りの中で見知った人を見つけたので声をかけようと追いかけたところで、もうひとり見慣れた人を見つける。
「あれ、えとさんもおらん?」
「やっぱあれえとさん?」
「学校、帰りとか」
「あぁ」
とえとの事情に納得していたその時だった、えとはするりとうりの腕に自分の腕を回し、しっかりと腕を組んだ。
「お?」
「えぇっ!?」
「えっ、」
そして、うりもそれを拒むことなくその状態のまま進んでいこうとするのをゆあんくんはすかさずスマホに収める。
のあとたっつんはゆあんくんの画面に映されている二人を覗き込む。
「とりあえず」
「帰りますか」
ゆあんくんはコクコクと頷いた。
「ちょっと二人ともこれどういうこと!?」
じゃぱぱがゆあんくんのスマホの画面を差し出しながらうりとえとに問う。
「えー、なんのこと?」
特別心当たりのない二人は素直に画面を覗き込んだ。
画面には親密そうに腕を組んでいるように見える二人。そうあくまで親密そうに見える二人である。
「あー、何?近くにいたの?」
「声かけてくれたらよかったのに」
あっさりとそういう二人に集まったメンバーは肩透かしを喰らってポカン状態だ。
「と、と、と、特に何もないってことやんな?」
「当たり前じゃん。うりが人混み歩くのがおっそいから引っ張ってただけだよ」
「お世話になりました」
メンバーは人混み、遅い、などと呟いている。大人組のシヴァとなおきりに関してはなーんだとそうであった方が面白かったのにと茶化す。もふとたっつんは冷静にそれはあかん(ダメ)だろとツッコんだ。
本当に何もない二人は解散解散と声をかけ、シヴァにご飯食べたくて帰ってきたんだよなどと晩御飯の催促をしている。
「本当に何もないんだよね?」
最後までそう聞いてくるリーダーにうりはいたずら心が浮かび、えとの肩に腕を回した。
「うぉっ」
「何かあって欲しいのぉ?」
察したえともニヤリと笑いぴとっとうりに寄り添った。
「欲しいの?」
ぱぴぷぺぽで騒ぐのあとコラーっと説教モードのたっつんともふ、えぇっとさわぐじゃぱぱとゆあんくんにもっとやれーと囃し立てるシヴァとなおきり、うりとえとは笑いながら走って中へと逃げていったのだった。
事情を把握していなかったリビングにいるヒロ、どぬく、るなはその騒ぎに驚き、後から事情を聞いて教えてよー!と悔しがった。