『猫と猫と日曜日』
兄夫婦が旅行に行くというので、彼らの飼い猫を一泊二日で預かることになった。
真っ白な長毛種のペルシャ猫で、名前はミミ。
猫を預かることに対して、ニアは不満を漏らした。
どうやらニアは子供時代、ワイミーズハウスの近所の野良猫に構おうとして手を噛まれて、割と大怪我をしたらしい。ハウスで動物と触れ合う機会はなかっただろうし、きっとそのイメージを払拭できずにいるのだろう。
「猫は嫌いです。愛想がなくて身勝手で。噛んだと思えば次の日は擦り寄ってきて。ムシがいい。自分の罪を忘れています」
自分のことを棚に上げてよく言うな、と思ったけど。
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窮屈そうな猫用のキャリーバッグを開けて猫をリビングに出すと、最初は挙動不審に僕たちや部屋をキョロキョロと見渡していたが、20分もすると落ち着き始め、優雅に毛繕いを始めた。
猫は嫌いと言った癖に、ニアは僕の隣に座って、ミミをじっと観察している。
猫と一緒に預かった、猫用の餌やおもちゃが入った手提げ袋から猫じゃらしのおもちゃを出してじゃらすと、ミミは元気よく飛びついてきた。ニアはそれを見て、目を丸くする。
「私にもやらせてください」
猫じゃらしを渡すと、ニアは飛びついてくるミミに怯えて僕の背中の後ろに隠れながらも、懸命にじゃらした。
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土日中に終わらせなければいけない持ち帰った仕事があるので、二時間ほど自室に籠らなければいけない。猫も部屋に連れて行ってあげたいが、パソコンの上に乗られてデータがおじゃんになるのは怖い。かといってニアはまだ恐怖心が取れないようで、猫から距離を取って、興味がなさそうな振りをしながらも、遠くからチラチラと観察している状態だ。仕方ないので、これも兄夫婦から預かってきた、猫用の2メートル四方の柵に入っててもらうことにした。
柵に入れてドアを閉めると、ミミはパニックになったようで、ウロウロしながらニャーニャーと必死に鳴き始めた。やっぱり可哀想だ……。
「ごめんね」と謝って柵の上から手を伸ばして撫でていると、トイレから戻ってきたニアがやってきた。
「何してるんですか?出してあげてください」
「ニアが怖いっていうから」
「怖いなんて言ってません。嫌いなだけです」
ニアはそう言うと、柵の扉を開けて、ミミを開放した。
「僕は自室で仕事しなくちゃだけど、二人きりで平気なの?」
「構いません。人間と猫とどっちが立場が上か、目にモノを見せてやります」
照れ隠しで変なことを言っているが、ニアにも弱いものを庇護する気持ちがあるんだなと思い、僕の不在を任せることにした。
自室で仕事をしていると、リビングからドッタンバッタンと景気のいい音がしてきた。何が行われているか非常に気になるが、恩返しに来た鶴の如く、見てしまったらニアは不機嫌になってむくれてしまうかもしれない。好奇心を必死に抑えて、仕事に集中した。
ーー二時間後、ひと段落がついたのでリビングに戻ると、ニアは日が当たったソファーの上でお腹を出して寝ていた。そのニアの腕の中に潜り込んだミミが、これまた気持ちよさそうに体を伸ばして寝ている。二人とも何をしていたのか、疲れきっているようだ。
僕はまるで兄弟のような二人の寝顔を眺めて、苦笑した。それにしても、僕とだってこんな寄り添って寝てなんかくれないのに。ちょっと猫に嫉妬しちゃうな……。
「ねえ、そこ変わってくれない?」
ニアを起こさないように小さい声でささやくと、ミミは耳をピクピクさせて薄目を開けて、ロシアンブルーの瞳を僕の方に向けたが、すぐまどろんで、目を瞑ってクークーと寝息を立てた。
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それから二人は打ち解けたようだ。
ニアは積み上げたタロットタワーやサイコロタワーを崩されると怒って一日中口を聞いてくれなくなるのに、猫に邪魔されるのは嬉しいらしく、崩されては、ご機嫌の時にいつもそうするように、うつ伏せに寝転んだ足をゆらゆらと揺らした。これが漫画だったら、「♪」という記号まで空中に浮かんでいそうだ。猫もあまり動かないニアを気に入ったようで、タロットタワーを崩しては、ニアの背中の上でご機嫌そうに丸くなった。
そんな二人を微笑ましく感じるものの、ニアは猫とおもちゃに夢中で、僕の方なんて見向きもしない……。僕は少し寂しくなって、その夜は楽しげな二人を眺めながら、缶ビールを三本開けた。
翌日の午後5時頃、兄夫婦が猫を迎えに来た。
玄関先まで見送った猫がいなくなると、ニアはしょんぼりと肩を落とした。
「長期休暇になったら、ミミに会いに行こう」
「行ってあげないこともありませんが……」
猫はもういないのに、誰に向かってツンデレってるんだろう、この子は。
ニアはリビングに戻ると、カーペットの上に横になり、寂しいのか、不機嫌そうに唇を尖らせながら一人静かにロボットをいじり始めた。
僕はニアの側に行き、隣に寝転んでぎゅっと抱きしめる。
「やっと二人きりだね」
と冗談めかしてそう言うと、ニアは「はあ?」と言って、僕をキックする。
「放ったらかしで酷いじゃないですか。少しは僕にも構ってよ」
「あなたにはいつも構ってあげてるじゃないですか……んっ」
髪を優しく漉きながらキスをしてそっと舌を入れると、僕の肩を押し返そうとするニアの腕から力が抜けていくのが分かった。舌を絡ませながらパジャマの裾から手を入れて胸に触れると、ニアは肩をピクっと跳ねらせる。そのまま姿勢を半回転させてニアの上に覆い被さる形になると、抵抗しようとする腕とは裏腹に、既に性器が固く勃ち上がり始めていることを太ももで感じた。
「……ニア、ここからどうします?」
唇を離して髪を撫でながら悪戯っぽく聞くと、ニアははあはあと肩で息をしながら、恨めしそうに僕を睨む。
「何するんですか。早く退いてください…………あ、ああ……っ」
パジャマの上から性器を掴んで扱くと、ニアは僕の腕にしがみついて、喘ぎ始める。
「ーーはっ……ん、ジェバンニ、もう分かったからベッドに……」
僕はしめしめと思い、ニアを抱え上げる。ニアは僕の腕の中で、トロンとした瞳で僕を見上げた。
「ジェバンニ……」
「ん?」
「猫を飼いませんか?」
僕は言葉を詰まらせた。
「それはーー、だめ」
心苦しくはあるけど、猫なんて飼ったら、今だって気まぐれな君がもっと僕のことを見てくれなくなるじゃないか……。
fin.
(「二人」はわざとというか面倒なのでそうしました)
コメント
2件
コメント失礼します! やばいくらいに最高すぎます… ニアかわいすぎる、、 本当最高すぎてにやけが止まらない…… ステニアの神作品ありがとうございます、感謝しきれないほどです…