◆戦場:中層・旧学区廃ビル群
夜咲叶霊とウィスの戦闘は、まるで静寂の中の爆発のようだった。
夜咲は無表情。魔物を自在に生成し、放ち、操る。
その顔に怒りも焦りも浮かばない。
一方、ウィス。彼の頬には微かな傷が走っていたが、目は決して逸らさなかった。
……ただし、戦いの最中、ふと“空白”が訪れる。
夜咲が数秒、魔物を止めた。
ウィスも動かない。
見つめる先は、空──いや、“あいつ”の死を感じた方向だった。
「……死んだのか、ガラ」
「──」
夜咲の無表情が、わずかに動いた気がした。その一瞬、戦場の空気が変わる。
ウィスは目を閉じ、わずかに頭を垂れた。
敵と交戦中であろうと、その男の最期に敬意を表することだけは忘れなかった。
「……安らかに。あの世で、変な詩でも読んでろ」
1分。たった1分。だがその1分が、彼にとっては永遠だった。
──そして、戦闘再開。
◆一方:白階・調査機関
白階の上機とその仲間たちは、魔物のウイルス拡散と感染経路を解析中だった。
しかし、データを重ねるごとに違和感が膨れ上がっていく。
主任研究員・ハルト=ジェンターは震える指でレポートをまとめる。
「……これは、ありえない」
「感染経路が……逆? いや、待て、これ“最初の感染源”が……」
──解析結果:ウイルスの最初の発生源は下層ではない。白階がかつて廃棄した旧研究施設からの漏洩。
つまり、発端は“上”だった。しかも、それを記録したログデータには、一人の名前が何度も登場していた。──流鏡。
◆緊急アラート:
「白階へ、緊急通達──“コードAQUAの継承者は、流鏡である疑いあり”」
上層に緊張が走る。
今、ウイルスも、戦闘も、すべては“上”から始まった可能性が浮上した。
──そして夜咲は笑っていない顔で言った。
「ウィスくん。あんたの“正義”ってさ、いつも“下”に向いてるけど、上を見たことある?」
白階の巨大スクリーンに浮かぶ、流鏡の顔。
そして、彼の笑い声が電波を通じて鳴り響いた。
「──ああ、楽しいね。死んでも足りないんじゃない?」
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