夜咲叶霊は、まるで霧が晴れるように姿を消した。
魔物の残骸と腐臭だけが残る廃ビル群に、
ウィスは一人、立ち尽くしていた。
「……逃したか」
つぶやく声に、悔しさはない。
ただ静かに、手のひらの血を拭う。
夜咲はどこかへ消えた。
魔物生成のウイルスをばら撒いた当人──それでも、彼女には“目的”がない。
ただ、世界を歪ませる触媒のように存在する女だった。
──そのとき、通信が入る。
「ウィス、聞こえるか」
ミルゼの声。
しかし、その声には明らかに異常があった。
「どうした?」
「……流鏡が、“上”を完全に掌握した」
「……!」
「俺たちの……“護井会”は、もう防衛組織じゃない。今は、亡霊だ」
彼は片腕を押さえていた。
そこから滴る血は、止まらない。
背後では、地下の隔離施設が爆破されていた。流鏡の手勢によるものだ。
感染者の処理、研究データの抹消、そして“口封じ”。
「俺はもう動けない」
「お前は──**流鏡を追え。殺せとは言わん。記録しろ。**今、何が起きてるかを。……証明してくれ」
目を閉じるウィス。
脳裏に焼きつく、ミルゼの言葉。
かつて何度も訓練を共にした、無愛想な男の顔。
──あれが、最後の命令になると悟った。
「了解した」
「……逃げろ、ミルゼ。生きろ。あんたが死んだら、“冗談の通じない世界”が完成する」
グレイは最後の力を振り絞り、地下通路の影へと姿を消す。
上層を目指し、一人、廃ビルの外へと足を踏み出す。黒い外套の裾をはためかせ、“正義の定義”を再び問いながら。
その眼差しの先にあるのは───全てを愉快に塗り潰す“流鏡”。
コメント
1件
今回も神ってましたぁぁぁぁぁぁあ!!!! 流鏡っちは...あぁ、なんかもう相変わらずそうで良かったです(?) ミルぜサァン!!うちは信じてるぞ...() ウィスたんは上層を目指すのか...!上層はねぇ...うん。なんかまじでやばそうだな(語彙力) 次回もめっっっっさ楽しみいいいいいいぃ!!!!!!!