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「え? で、でも……明日も仕事だよ? 着替えだって無いし……」
「ロッカーに替えのシャツ入ってるから明日職場で着替えりゃ平気」
「……そ、それでも……」
「……駄目なのかよ?」
「いや、駄目って訳じゃないけど……その、どうして急に?」
「……陽葵が可愛い事言うから、離れたくなくなったんだよ」
「そ、そんなつもりは……」
「それとも、陽葵は迷惑な訳?」
そういう聞き方は狡いと思う。
だって、一之瀬が私の部屋に泊まりたいって言った時、凄く嬉しかったから。
「……迷惑……じゃないよ」
「そっか、なら良かった」
互いにギュッと手を握り閉めた私たちは、そのまま私の自宅最寄り駅まで電車に揺られていき、駅に着いてもその手が離れる事は無かった。
駅近くのコンビニに寄って一之瀬が替えの下着や歯ブラシなどを買い揃えた。
「今度さ、替えのシャツも陽葵の部屋に置いておいて良い?」
「え? あ、うん……構わないよ」
これまではあくまでも仕事帰りに送ってくれて、少し一緒に過ごして一之瀬は帰っていた。まあ、深夜になる事もあったけれど、どんなに遅くなっても泊まりはしなかったから下着とか歯ブラシとか、そういう物は一切置いていなかったけれど、今日を堺に私の部屋に一之瀬の物を置いておく事になるのだと思うと、ちょっと嬉しくなる。
「つーか、陽葵の物も俺の部屋に置いていいよ。今週末は俺の部屋で過ごそう?」
「……うん、分かった」
そして、当たり前のように交わされる休日の約束。
これまで付き合った人とも、こうした初々しい会話は勿論あった。
でも、それは本当に最初だけ。
付き合って、デートして、流れでエッチして、次の約束はお互いが都合の合う時。
休みだからと言って必ず約束したりはしなかったし、それが当たり前だと思ってた。
でも一之瀬は違って、休みの日は予定が無ければ一緒に過ごしたいタイプのようだったのだけど、私もどちらかと言えばそういうタイプのようで、当たり前のように約束出来る事が嬉しかった。
部屋に着いて、リビングに入った瞬間、一之瀬は私の事を自身の胸へ引き寄せると、そのまま抱き締めてきた。
「一之瀬――」
まだ荷物すら置いていなかった私の手からバッグが床に落ちていき、一之瀬の名を口にしたところで唇を塞がれた。
「……ッん、……はっ、ぁ、んん――」
息つく間も無く与えられるキスの嵐。
後頭部を固定されて身動きすら取れない私は、ただひたすら一之瀬のペースに飲まれていく。
勿論、嫌じゃない。
何なら私だって、電車に乗っている時も、アパートまでの道のりも、一之瀬にくっつきたくて仕方無かった。
「……い、ちの、せ……ッ」
「――何?」
何度も与えられるキスの合間にようやく一之瀬の名前を呼ぶ事が出来た私に、「何?」と問い掛けてくる。
「……あの、このままじゃ……。せめて、シャワー、浴びてから……」
何だかこんな発言をすると、期待しているみたいな気もするけど、このままキスだけで終わる気はしなかったし、仕事の後だし、せめてシャワーは浴びたいと思って言ってみたのだけど、
「――シャワーなんて後で浴びればいいよ。今は、そんな時間も惜しいから」
それは一瞬で却下され、抱き締められていた身体が離されたと思った刹那、腕を引かれて寝室にあるベッドの方へ歩いて行くと、
「俺は仕事中も、飯食いに行ってた時も、電車の中でも、アパートに来る間中も、ずっと、陽葵を抱きたくて仕方無かった――」
そのままベッドの上に押し倒され、その上に一之瀬が跨がって来た。
「……で、でも、仕事だったし、汗、かいたから、汚いよ……」
「汚くねぇよ、つーか、お前に汚いとことかねぇし」
「ッちょ、やぁ、……ッ」
そして、耳元で囁くように私の言い分を跳ね除けると耳朶から首筋へ舌を這わせたと思ったら、そのまま首筋から鎖骨の辺りに軽く吸い付くように口付けてきた。
それが何を意味するのか、私には理解出来た。
一之瀬はキスマークを付けてきたのだ。