コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ちょっ! 一之瀬!? 何してるの……」
「何って、陽葵は俺のだって印付けてんだけど?」
「そ、そんな事したら、見えちゃう……」
キスマークを付ける意味なんて聞くまでも無いのは分かってるし、しいて言えば付けられるのが嫌な訳でも無いのだけど、付ける場所が問題だと思う。
首筋とか鎖骨に付けられると隠すのが大変だし、流石に人に見られたら恥ずかしいのに。
そう思って一之瀬に抗議したのだけど、
「いや、そもそも隠したら意味ねぇじゃん。特に、館林に見せつけてやりてぇよ、陽葵は俺のだから、これ以上近付くなって」
独占欲が強い一之瀬にはそんなの一切通じなかった。
そればかりか、私のブラウスのボタンに手を掛けると無言で外した後でキャミソールとブラジャーを一緒に捲り上げ、
「――ッあ、んん、」
今度は隠すものが無くなった胸の膨らみに口付けてくる。
既にプックリと存在を露わにした胸の頂きを避けるように、周りを重点的に刺激してくる一之瀬。
「っや、もう、付けないでッ」
そして、今度は両胸にもキスマークを付け始めてきた。
「嫌だ。寧ろ、もっと付けたい」
「だ、駄目だよ……」
正直、一之瀬の独占欲や執着心には少しだけど、驚きと戸惑いがある。
追いかけるより追われる恋がしたいって思ったけど、ここまでは想定外。
一之瀬の事は好きなのに、一之瀬の気持ちの方が大き過ぎて、どうしていいか分からなくなる時がある。
「……い、一之瀬、お願いだから、キスマークは、もう……」
見えない所だから何ヶ所に付けられても良い訳じゃないし、これ以上付けられても流石に困ると思った私が止めてと懇願すると、
「――つーかさ、何で陽葵は、二人きりになっても俺の事名前で呼んでくれねぇの? 仮の彼氏だから仕方ねぇけど……何かさ、俺ばっかりが陽葵を好きなの、少し悲しい……」
聞き入れてくれたのは良かったのだけど、悲しげな表情を浮かべてそんな言葉を口にすると、落ち込み肩を落とした一之瀬が私の上から退いた。
「あ、あの……私……」
まさか、そこまで一之瀬が落ち込むなんて思わなかった私は焦る。
名前で呼ばないのを指摘されたけど、これについては本当、無意識というか何ていうか……私はこれまでの彼氏の事もすぐに名前で呼ぶ事が出来なくて徐々にという感じだったから今回も慣れたらで大丈夫かなって思ってたけど、どうやら一之瀬はそれも不安に思ってしまうらしい。
ただ名前で呼ぶのが恥ずかしいだけで、嫌いだからとかそういう理由からでは無いのだけど、そんなの言わなきゃ伝わらないだろうと反省した。
「ごめんね、丞……、私、名前で呼ぶのって、なかなか出来なくて……それで不安にさせたのは本当にごめん……」
目の前ですごく落ち込む一之瀬の姿を目の当たりにした私は胸が締め付けられるくらいに苦しくなって、どうしたら分かってもらえるのかを必死に考えながら彼に近付いて行き――
「私も、丞の事、大好きだよ……。ただ、丞の好きな気持ちが大き過ぎて、これまでそんな風に好きになられた事が無かったから、ちょっと、戸惑っちゃって……。だけど、それは嫌じゃない。丞の事は本当に好きなの。それは信じて欲しい」
落ち込む一之瀬を後ろから包み込むように抱き締めて、今の私の中にある素直な想いを口にした。
「……それ、本当? 俺だけが好きな訳じゃなくて、陽葵も俺の事、ちゃんと好き?」
「うん、好きだよ。好きじゃなかったら、部屋に入れたりしない……抱き合ったり、キスだって……しない」
一之瀬の中から不安を無くすには、きちんと想いを伝えなきゃ。
きっと、正式に付き合おうと一言言えば、一之瀬にとってそれが一番安心出来る言葉なのだという事は理解している。
でも、それはまだ少しだけ早い気がして、どうしても言えなかった。
今の私の精一杯の想いを聞いてくれた一之瀬は一旦私から離れてこちらへ向き直ると、
「……分かった。信じる。俺も少し嫉妬剥き出しにし過ぎたところは子供だったと思うし、それでお前を困らせたのも反省する。けど、それだけ陽葵が好きって事だから」
「うん、分かってる」
未だ拗ねた表情をしたままの一之瀬が私の事を抱き締めてくれたので、私も彼の背に手を回して、負けないくらいにギュッと抱き締めながら頷いた。