「猫になりたいな」
そんな些細な君の言葉から僕は少しだけ、胸が苦しくなった。
ある夏の放課後。君はまた知らない誰かに呼び出されていた。
「えっと…ど、どうしたの?」
「朱莉姫那さん!ずっと好きでした!僕と付き合ってください…!」
何度見ただろうか。知らない男が姫那に告白をしている所を。
地味めの見た目ではあるものの、柔らかく、包み込むような姫那の優しさに男女問わず惹かれているようだ。
「まずはこんな私の事を好きになってくれてありがとう。嬉しかったよ…!でもごめんなさい」
断る時もちゃんと相手を考え、感謝を入れる姫那は流石としか言えなかった。
「そ、そうですよね…すみません…ちなみに理由をお聞きしてもいいですか…?」
「り、理由か……」
「理由」というワードに少し戸惑いを見せている。
しばらく黙り込んだ後、姫那は口を開いた。
「私、好きな人がいるんだ。11年くらい好きで、まだ諦めきれないから」
「好きな人、ですか…が、頑張ってください!僕は応援していますので…!」
「ありがとう!それじゃあ、またね!」
午後4時50分。なんの変哲もない通学路で1人、お気に入りの小説を読みながら淡々と歩く。
「叶くん!」
突然背後で名前を呼ばれ、振り向くとそこには、さっきまで呼び出されていた姫那だった。
「あ、姫那」
「はい!叶くんの姫那ですよ!」
「まだ分からないだろうが」
姫那は僕の彼女……ではなく、「許嫁」だ。
姫那の親と 僕の親は、超が50個くらい付くほど仲がいい。
『この子達仲良いっぽいし、将来結婚してほしいな〜』みたいな軽い気持ちで許嫁にされたらしい。
正直言えばめんどくさい。
「分かるもん!だって私、叶くんのお嫁さんになるんだもん!」
「幼稚園の頃の話でしょ?それ」
「いーまーも!ねえ叶くんはもう姫那の事好きじゃない…?」
そんな彼女の様なことを……。
好きか嫌いで言えば、好きになるけれど、それとこれでは少しばかり、いやかなりばかり話が違う。
ちなみに今更だが、「叶くん」というのはあだ名で、本当の名前は城純叶斗。
幼い頃から姫那には「叶くん」と呼ばれている。
「聞いてる…?叶くんってば!」
「…好き」
「ん?聞こえないよ〜?」
「どちらかといえば…好き。これでいいか?」
そう言うと姫那は息をスっと吸った後、メガネの下からこれ以上に無いほどの可愛らしい笑顔を覗かせている。
コメント
2件
えかわいいんだけどむり(?? 好きな人いるって…?11年…? ほんとにかわいいんだけど(??? 猫になりたいってどゆことだろ…? ↑考察力ない人 投稿ありがとうございますっ!