ある日、夢を見た。俺の尊敬している人が
目の前で無惨に殺される。その様子を隅で
見ている俺に奴らは、血が滴る刀剣を薙ぎ払い、こう言う。
「僕達は冒険者パーティ、モンスレイだ!」
「……うぅ…」
嘆声を上げ、夢の内容に嫌悪感を抱きながらも布団から半分、身体を起こす。
「おはようございます。カルティア様」
「…おはよう…」
部屋の扉の横には、肩まで伸びた黒髪に大人っぽい雰囲気を持ち、眼鏡をかけていてもわかる鋭い目つきをした女性。 ガーナが立っていた。
何食わぬ顔で着替えを持ってくるガーナに、
ジト目を向け。
「それで、何で勝手に入ってきてるんだ?」
「…魘されていらっしゃったので、つい」
大人っぽい雰囲気と裏腹に、欲しい物を買って貰えなかった子供のように沈んだ表情を浮かべる。
「……」
「また”あの夢”を?」
沈黙する俺に気遣わしげな表情をする。
「…まあな、でもあまり気にし過ぎないようにしてるから。ガーナもそんな気を遣わないでくれ」
「カルティア様がそう仰るのであれば」
俺はガーナが用意した服に袖を通し、立ち上がる。
「それじゃあ、魔王様に会ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
俺の尊敬する人とは、ずばり魔王様である。
魔王様には、幼少期に奴隷商から助けていただきその後は、我が子同然に育てられた。魔王様からは「やりたい事があるなら好きにやっていい」と言われたが、俺は大切に育ててもらった恩を返したい。だから、今ここで働くことにしているのだ。
「来たか、カルティアよ」
「はい。魔王様」
椅子の肘掛けに肘をつく魔王様の前に、俺含む7人の魔王軍幹部が跪く。
「よし。今日も集まってくれた事、感謝する。それでは今日も魔王軍の掟を7つ答えてもらおう」
魔王軍であるからには、絶対に厳守しなければならない掟を7つ言うのが、毎朝の恒例が行われるのが魔王軍幹部なのだ。
「1つ目、アルバート」
緑髪で髭の濃い男が答える。
「はい。1つ、魔王軍ならば早寝早起きを欠かさずし、健康的な生活を心掛けること!」
そんな感じで6つ目まで言い終わり、最後に俺の番が回ってくる。
「最後に、カルティア」
「はい。7つ、魔王軍ならば人間に危害を加える事を絶対にするべからず」
魔王様は満悦な表情を浮かべる。
「よーし。朝礼はこれにて終了。各自仕事をするように」
朝礼が終わり、自室に戻ろうとする最中。
「カ・ル・ティ・アー!!」
と急に背中に抱きついて来たのは、サーニャだ。彼女は、幼い見た目をしているが実は俺の2個下の16歳である。
「今日、いつもより声出てたじゃん!」
「…そりゃどうも」
サーシャは黄金に輝くショートヘアを背中
に、擦り付ける。
「離れてくれないかな?」
「いいよー!」とサーシャは威勢のいい声で
応える。
背中から離れ、急に神妙な面持ちになる。
「聞いたよカルティア、最近悪い夢見るって」
「…どこでそれを?」
「ガーナさんから!」
やっぱりか…と俺は頭を掻く。
「あのな、サーシャ。俺は大丈夫だし、何よりガーナから俺の情報を仕入れるのは、
もうやめてくれ」
「…わかった……」
沈んだ顔でゆらゆらと部屋に戻って行くサーシャを見る。
…はあ、まったく…
「サーシャ、また今度クッキーでも食べよう」
すると、サーシャはぐるりと顔を振り向かせ、「うんっ!」と力強く頷いた。
自室の扉をゆっくりと開ける。
…流石にもう、ガーナはいないな…
俺は、先程の服とは別の少し古めの服を着る。服を着替えたのには理由がある。
とある場所へ向かうためだ、こんなに禍々しい服を来てその場所へ向かうわけには行かないからな。
先程着ていた服を視界の端に入れながら思う。
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