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※一ノ瀬雫視点
開いた扉から強い雨音が聞こえてくる。
息を切らした彼は濡れた髪から水滴を垂らし、男たちを睨んだ。
長い髪にあの制服。
間違いない、九条くんだ。
「ちょっと君、なんで勝手に入って来てんのwダメだろ?」
ガラの悪い男が彼に近づく。
「今お取込み中なわけ。見たらわかるよね? 今立ち去れば何もしないでやるから、な?」
しかし、九条くんは男を無視して私の方に歩いてくる。
「っておい! 聞いてんのか!」
男が九条くんの肩を掴む。
――その瞬間。
「ッ!!!」
男の腕をつかむと、いとも簡単に男を投げた。
「うぐっ! いってぇ……」
床にうずくまる男。
九条くんは再び男たちを睨んだ。
「今すぐ一ノ瀬から離れろ」
その場に緊張が走る。
男たちは警戒してすぐに構えた。
「な、なんなんだよお前はァッ!!!」
「俺たちとヤンのか⁉」
「今すぐ出てけ! 今いいところなんだよッ!!!」
「それに、この人数を一人で相手するのはさすがに無理だろ?w」
「大人しく引き返せ!!!」
確かにその通りだ。
まだ七人残っている。どれだけ強くても一度に相手できるわけがない。
「もう一度言う。一ノ瀬から離れろ」
なのに九条くんは怯む様子もなく繰り返した。
「クッ……痛い目見ねぇとわからないみたいだな!」
男が三人、先陣を切って九条くんに襲い掛かる。
「九条くんッ!!!」
「――大丈夫」
軽い身のこなしで一人と距離を縮めると凄まじいスピードで拳を繰り出す。
他が怯んだ一瞬の隙を見逃さず、残り二人に蹴りと拳を入れ、あっという間に三人を倒してしまった。
「う、嘘だろ……」
「クソがぁああああああああッ!」
他の三人も一斉に襲い掛かる。
しかし、九条くんはいとも簡単になぎ倒し、太った男を除いて全員が地面の上でうずくまっていた。
「すごい……」
澄ました顔で九条くんが私のところにやってくる。
「こ、こっち来るなァッ! 雫たんは僕のものなんだ!!!」
「そんなわけないだろ」
九条くんが男をキッと睨みつける。
「ひぃいいいいいッ!!!」
尻もちをつく男。
「わ、わかった! この際仕方がない! 一番最初はお前に譲る! 僕は二番目でいい!!! 雫たんを好き放題にしていいから、ね? ね⁉」
九条くんは男を見下ろすと、濡れた前髪をかきあげた。
「あ……」
これまでまともに見えなかった九条くんの顔が露わになる。
彫刻のように整った顔に、キリっとした目。
テレビに出てくるモデルにも劣らないカッコよさがあって、私は思わず目を奪われた。
その顔はまさに、私が何度も思い出し、会いたいと願った人のもので……。
そして九条くんは男を睨みながら言い放った。
「それを決めるのはお前じゃない。一ノ瀬だ」
鋭い眼差しが男に注がれる。
「う、うわぁああああああっ!!!」
自暴自棄になった様子で、男が九条くんに突進していく。
しかし、軽々避けて見せると、巨体を見事な所作で投げた。
「ブヒッ!!!」
床に打ち付けられる男。
目をひん剥き、そしてそのまま気を失った。
九条くんがひざまずき、私の拘束を解く。
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫よ。何もされてない」
「そうか。よかった」
九条くんの頬が緩む。
ドキリと胸が高鳴る。
「……また助けてくれたのね、私のこと」
「それは……」
「もう言い逃れできないわよ? だって顔、ちゃんと覚えてるんだから。それに、もしあなたが否定しても私はもう確信してる。私の中であの時も私を助けてくれたのは――九条良介くん、あなたよ」
彼の目をじっと見つめる。
すると観念したようにふっと息を吐いた。
「降参だよ」
「ふふっ、やっと認めた」
「認めなくても確信してるんだろ?」
「そうよ? でも白状してくれた方が嬉しいわ。だってなんだか私を受け入れてくれたみたいだもの」
「そういうわけじゃないんだけど」
「あらそう? ま、私が勝手に思っておくわ。気にしないで」
私が言うと、彼は苦笑いを浮かべた。
「でも、初めから俺が怪しいって踏んでたよな? すごい探ってきたし」
「そうね。ほぼほぼ九条くんなんじゃないかと思ってたわ」
「どうしてなんだ?」
「勘よ」
「か、勘?」
「そう。女の勘って鋭いの。それにあの現場に残ってた残り香が九条くんのと一致したことが決定打だったわ」
「残り香って」
九条くんが再び苦笑する。
それから彼に手を貸してもらい、立ち上がった。
そして彼を見上げる。
「改めて、本当にありがとう。二度も私を助けてくれて」
「いいよこれくらい」
「どうしてここがわかったの?」
九条くんは黒板掃除をしていたはずだ。
なのにここにいるのは不自然だ。
「弁当箱、忘れてただろ? だから届けようと思って一ノ瀬を追いかけたんだ」
カラン、と音を立てて弁当箱を見せつける。
「そしたら一ノ瀬が見当たらなくて、ちょうど声が聞こえたからここに」
「そうだったのね。ふふっ、九条くんとは変な縁があるのかもしれないわ」
「そうかもな」
いや、きっと彼とは縁がある。
こんな偶然が重なるわけがない。
絶対にそうだ。それにだって、私の胸はこんなにも高鳴っているのだから。
「そろそろ行こうか。雨も弱まってきたし」
「――ちょっと待って!」
出ていこうとする彼の手を掴む。
そしてグイっと私の方に引き寄せると、目いっぱい背伸びをして……。
――チュッ。
唇が柔らかい頬に触れる。
「っ⁉ な、な⁉」
彼の頬が赤く染まる。
「ふふっ、これはちょっとした感謝の気持ちよ」
「か、感謝って……」
「……私のファーストキスだったんだから」
「な……!」
「ふふっ♡ ありがとね、九条くん」
私が言うと、彼は動揺しながらも頷いた。
その姿を見て、また胸がきゅんっと締め付けられる。
やっと彼を見つけた。
もう離したりなんかしない。
あの時みたいに、逃したりなんかしない。
絶対に夢中にさせてみせるんだから。
覚悟しなさい、九条くん♡
♦ ♦ ♦
※須藤北斗視点
雨が頭上から降り注ぐ。
「クソッ! 雨が降るなんて聞いてないぞ!!!」
傘をさしながら急いで向かう。
突然の雨で傘を取りに行ったため、予定よりも随分と遅れての出発となってしまった。
今頃あいつらはお楽しみに違いない。
「ほんとは指一本触れさせる前に助ける予定だったが……まぁいい」
むしろ犯されているところに俺が現れて助けたら……もっと好きになるに違いない!
それにその方が……。
「キヒヒヒヒ……興奮するってもんだろ」
ようやく約束の場所までやってくる。
「ってあれ? なんで開いてんだ?」
ったく、誰かに見られたらどうすんだよ。
あいつら見るからに頭回んなそうだなとは思ってたけど、まさかここまでとは……はぁ、本当に馬鹿は呆れる。
とにかく、早く雫を助けてやろう!
「おい! 大丈夫かしず――え?」
声をかけかけて立ち止まる。
なぜなら俺の目にとんでもない光景が飛び込んできたから。
「な、なんで九条が……それに、どうしてキスしてんだァ⁉」