人、人、人……
彼女は、パニックに陥っていた。 初対面の大男に囲まれて、 しかもたくさんの視線を浴びている。 元々話題の中心にいるような状況が 大嫌いだった彼女にとって、 こんな事は 非常事態。 体が拒否を訴えるかのように、 勝手に小刻みに震えている。 グルッペンは、そんな様子には 気づかないまま、幹部らの前に 彼女を立たせ、話し始めてしまった。
gr「コイツはコンパルと言ってな、 今回護衛をしてもらう事になったから、 間違えて殺したりするんじゃないゾ。」
しんとしていた会議室のどこかから、 いかにも不快そうな声が上がる。それは広い部屋に良く響き、コンパルの耳にも届いた。その声も、無論彼女を苦しめる為の材料にしかならない。 俯いていてよく見えない彼女の顔は、 きっとお白いを塗りたくったように、真っ白く染まっていることだろう。それに、 先程までは指先だけが震えていたのが、今度は腕にまで広がってしまった。
「ねぇ、ちょっといい?」
数秒間の沈黙を、柔らかな声が優しく遮る。その声の主の名前はしんぺい神といい、 WR国の中で最も高い技術と多くの知識を持つ医者だ。 これは余談だが、 彼は国民にホモの神と噂されるほど、過激な同性愛者だとか… そんな彼は、コンパルの様子に少し疑問を残しつつ、グルッペンに対して意見を述べる。
sn「なんで、この子を選んだの?」
彼の言葉は、簡単ながら複雑で重要な意味を持っていた。コンパルという部外者を、内部に招待することへの安全性の証明。そして、彼女自身のどこが、グルッペンにとって魅力的に映ったのか、強いと判断するに値する経験値はどれ程のものだったのかを、しんぺい神はしっかり説明して欲しかったのだ。
少しの緊張が皆の心を縛り付ける中、グルッペンは 「強くて従順だからだ。」という簡潔な言葉を言い放った。
それには納得できないと言うように、 しんぺい神の隣に座っていた幹部が 話し出す。
「見た感じ女っぽいけど、 ちゃんと俺らの護衛できるんか? あと、別にこんな奴に守ってもらわんといけん ような弱っちいの、この軍には いないと思うんやけど。」
彼は、その場の皆が思っていることを 実に的確に言語化してくれた。 他の幹部もそれに納得したらしく、そう言った男から、再度グルッペンに目を向ける。そして、そんな彼…ロボロの問いかけに、 グルッペンは至って真剣に答えた。
gr「確かに、お前の言うことも分かる。 だが、コイツは強いゾ。 …そうだな、少なくともロボロ。 お前よりはな」
rb「…はぁ?」
いきなりの罵倒に動揺したのか、 彼は間の抜けた声を出した。コンパルは少々呼吸を荒くしながらも、現状を理解しようと、懸命に話に耳を傾ける。
「ロボロより強いってことは、 俺とかトントンくらい強いってことか?」
緑色のパーカーを目深に被った男が、間髪入れずにグルッペンにそう尋ねる。 だが、その言葉に疑いや焦りの 感情はなく、 むしろワクワクとした思いが 言葉の裏に隠れているような感じだった。 グルッぺンは、実際に戦ったことの無い 2人の戦力を比べるのは難しいと言う、 曖昧な答え方をした。 それには少し不満そうな顔をした彼、 ゾムは、ならば戦ってしまえばいいとすぐに思い直し、 コンパルに声を掛けた。
zm「んじゃコンパル!この後俺と戦わん? 」
ガタイのいい彼からは想像もできないほどに純粋な声が、そう問う。
会議室という広い空間が、一時的に彼とコンパルの話で貸し切られる。
もう歩く力も残っていない彼女は 、 なんとか血の気のない顔を上げて、 指でOKサインを つくって見せる。 一見余裕がありそうな対応だが、彼女は内心とても焦っていた。 否、「これはまずいなぁ」とどこか 他人事のように 思っていた、と言う方が正しい。 本当は、今すぐにグルッペンらを説得し、医務室で休ませてもらった方が良いのだが、彼女にそんなことは到底出来っこない。寧ろ、自分がまずい状況であることを隠してしまう。 勿論ストレスのせいで正常な判断ができていないというのもあるが、”彼女の持つ過去”によって、自分の本当の感情を表に出せなくなってしまったというのが、1番の理由だろう。
そろそろコンパルが泡でも吹いて倒れてしまうのではないかという頃、大きな足音と共に、一般兵が会議室の扉を勢いよく開けた。その場に居た全員の視線が、一斉にその兵士へと注がれる。普通、 会議中の会議室に一般兵が飛び込むなど、あってはならないし許されることは無い。だが、一般兵にこんなことを”させた”理由は大抵幹部、もしくは総統の側にある為、この軍では特別に許されているのだった。
「そ、総統様ッ!今、門の前に…! 」
そこで、一般兵は口篭る。それに向かって「早く言えや阿呆。情報共有は最速でしろ」 というキツイ声が飛んだ。その声の主は鬱。片手にタバコ、服装はスーツという少しマフィアのような外見だが、しっかりと重要なことは伝えるらしい。コンパルの彼への印象も、僅かにだが変わったかもしれない。(変わったとしても、-が0になるくらいの微妙な変化だが。)
「は、はいっ!申し訳ございません、、えっとー、あの、RD国運営御一行様がいらしているのですが…」
汗をダラダラと流して、一生懸命話すその兵士の言葉に、幹部達は一斉にグルッペンの方を見た。当の彼はバツが悪そうな顔をし、それから恐る恐るトントンの顔色を伺う。トントンは怒りが今にも爆発しそうな表情でグルッペンを睨みつけ、兵士らが密かに”粛清剣”と呼ぶ剣を握りしめていた。
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