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【side:千景】
年明け、実家へ久しぶりに帰省した。兄貴家族も来ていたので、一歳半の甥っ子とも久しぶり会う。
「拓真大きくなったなー!覚えてるか?ちーにぃちゃんだぞー。」
一歳半の甥っ子はまだしゃべれないが、俺の事を覚えていてくれていた様で兄貴の奥さんの千里さんの腕の中から両手を伸ばしてくれている。
拓真が可愛いくて、勝手に全開の笑顔になってしまう。小さな拓真を抱っこしようとすると、
「ちー。」
「おぉー!え?!しゃべれんの?!可愛いなー!」
すぐ隣にいた兄貴の尚人に「顔がデレデレだぞー。」と、言われた。
「いや、これは仕方ない!可愛い拓真が悪い!くそー。マジ可愛いーなー!」
今日は母親がいる、昔から住んでいる実家へ来た。父親の方へは別日に行く事になっている。久しぶりの家族の再会だった。
・・・・
夕食も食べ終わり、千里さんが拓真を寝かしつけに部屋を出た。ソファに座りながらビールを飲んでいたところ「まだ飲むの?」と、母に聞かれた。
「兄貴どうする?まだ飲む?」
「そうだなー、もう少し飲むか。」
「俺たちまだ起きてるわー。」
「はいはい。片付けておいてよー。」
と、言って母親が部屋を出た。
何となく付いているテレビの音の中、久しぶりに兄貴と酒を飲む。特に会話も無く、缶の飲み口に口を付けながらもボーっとしていた。程よく酔いが回り、最近の出来事と、昔の記憶が交互に短くフラッシュバックする。
「…なぁ兄貴。」
「ん?どした?」
「…俺、都希くんに会ったわ…。」
少し間を開けてから「…いつ?」と、聞かれた。
「あいつ元気にしてた?」
「うん。何にも変わって無かったよ。」
「そっか。」
兄貴の顔を見なくてもその返事のトーンで表情が分かってしまう。でも、兄貴が今、都希くんに対してどんな気持ちでいるのかは分からない。
「もしまた会ったら宜しく言っといてよ。」
「…分かった。」
『言える筈無い。俺が弟だって事すら言えてないのに…。』
それ以上、都希くんの話しはしなかった。
・・・・
久しぶりに自分の部屋のベッドで眠る。
無償に都希くんに会いたくなった。
スマホを手に取り、アプリを開くとすぐに出て来る『ツキ』の名前をタップする。今までのメッセージのやり取りを眺めた。
『返事みじかっ。』素っ気ない都希くんからの返信が今更ながら笑えた。
午前も回り、遅い時間だと分かっていたけれど、新年の挨拶をまだ送っていなかったと思い『今年もよろしく。』とだけ送った。すぐに既読が付いた。予想外の事に驚いていると、可愛い祈願新年のスタンプの後に『よろしく。』と、返信が来た。
たったそれだけの事なのに、酔いが回っているせいなのか唐突に泣きそうになった。
『いつ会える?』
そう送ると『今日』と返事が来た。
『夜そっち行く。』
『分かった。』
早く時間が過ぎ去って、明るくなって、すぐに暗くなって欲しくなった。
・・・・
朝になり、「俺が拓真見てるからたまにはデートしてこいよ!」と、兄貴達に声を掛けて甥っ子の拓真と家で遊んだ。
『都希くんの子どもだったら溺愛しちゃうなぁ…産めないけど。』
なんて不可能な妄想をするくらい夜が楽しみで仕方がなかった。
拓真のお昼寝の時間、兄貴達が居ない事を寂しがって拓真が少し愚図ってしまい、母親にも手伝ってもらいなんとか寝かしつけた。
『俺、無力だ。ちびっこ一人でこんなに大変なのに保育園で働いてるのすげーな。』と、拓真の寝顔を見ながらも都希くんの事ばかり考えてしまっていた。
『拓真ねたよー。』
兄貴にメッセージを送る。
『ありがとな。』と、すぐに返事が来た。
・・・・
「俺、用事出来たから帰るよ!」
「随分急ね。またゴールデンウィークにでも顔見せなさいよ。」と、母親に言われた。
「はいはい、時間あったらね。」
帰り際、「千景くん、拓真と遊んでくれてありがと!」「千景、またな。」兄貴と千里さんに声をかけてもらい、兄貴に抱っこされながら拓真も手を振ってくれた。あの頃と変わらない兄貴の笑顔が見える。拓真とバイバイのタッチをしてから
「じゃ、またな。」
と言って玄関のドアを閉め、大好きな人の元へ急いだ。