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16 - 第16話 文化祭が楽しみな理由

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2024年08月23日

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「あれって会長?」


「あ、そうじゃない?」


今年入学したばかりのミホとアズサは、昇降口に仁王立ちで立ち、朝の挨拶をしている右京を見つめた。


「おはようございます!」



「イケボとはああいうのを言うんだね…」

「美声なり美声なり」

「尊い……」

「麗しい……」


夏服に衣替えをし、ますます清涼感が増した会長に、二人揃って目を細める。


「てか、今週って挨拶週間だっけ」

「違うと思うけど?あれ、なんでいるんだろうね、会長」

「でも朝からご尊顔を拝めてラッキー」


「おはようございます!」


ひときわ大きな声であいさつしたミホに右京は振り返った。


「おはようっ!元気がいいなっ!」


「ありがとうございます!」


ミホが顔を赤らめる。


「やっばーい、会長と話しちゃった」

「ちょっと目つき悪いけど、笑うとかわいいよね…!」

「爽やかすぎる…。恋しちゃうかも…」

「会長って、彼女とかいーーー」



「おい!!何シカトこいてんだ!こら!!」


慌てて振り返る。


「話があるからさっさと来いって言っただろうが…!」


数秒前まで爽やかな笑顔で、イケボを出していたはずの会長は、鬼のような形相で凄み声を出していた。


「時間がねえんだよ、時間がー!!」


言いながら誰かの首根っこを掴んで引きずりながら、2人を追い抜いていく。


「―――あ」

ミホは唖然としながら言った。


「赤い頭…。あれがもしかして、宮丘町に伝わる伝説のヒーロー、”赤い悪魔”……?」


「え……まさかぁ」

アズサが首を捻る。


「ヒーローだったら、会長に引きずられて行かないと思うけど……」



2人は首を捻りながら、1年生の校舎へと急いだ。


◆◆◆◆◆


「だから!出ろ!文化祭に!」


朝から自分を体育館脇まで引きずってきた右京を睨みながら、蜂谷は痛む首を捻った。


「イケメンカフェー?頭悪すぎじゃないの?」


右京で遊ぶのはいいが、そんな青春のど真ん中にまで放り込まれるんじゃ堪らない。


眉間に皺をよせ、右京を睨む。


「そんなの、授業でもないんだし」

「う、うん。まあな」


「強制参加なんておかしいでしょ」

「でも、これも立派な学校行事だし…」


「しかも勝手に役割まで決められて」

「それはそうだけど」


「はっきり言って迷惑」

「ーーーーー」


(あれ―――?)


畳みかけるように言うと、意外にも大人しくなった右京を見下ろす。


「………会長?」

俯いた彼を覗き込む。


――てか、この人―――。


夏服のワイシャツ一枚になった彼を見下ろす。


――白シャツになると、無駄に爽やかさがアップするな……。



「……えなんか……」


低い声が聞こえる。


「…まえなんか……」


「は?何?」


華奢な身体が震える。



「お前なんか!イケメンカフェ店員だろ!いいばっかりだろうが!!」


「………!」


クワッと狂犬の名に恥じぬ立派な犬歯を剥いた右京が、蜂谷に掴みかかる。


「俺なんか女装カフェだぞ!!また女装だぞ!!どうしてくれるんだ…!」


「……え」


「文句言わないで出ろよ!世間一般的に言えばお前、イケメンの部類なんだろうがあああああ!」


おかしいキレ方をしながら蜂谷の首を前後に揺らす。


「しかもお前、永月も一緒に………」


やっと動きが止まる。


「永月?―――ああ。永月もイケメンカフェなの?」


呆れて言うと、右京は顔を赤らめて俯いた。


「……おーい?今度はどうしたの」


力が抜けた手を振り払いながら、コロコロと表情の変わる右京を覗き込む。


「お前……」


「は?」


「………」


「……いきなり切れるのはナシね?」


「俺を……」


「会長さんを?」


「その、弄るときさ」


「?」


「―――黒魔術でも使ってんのか?」


「…………はあ?」


「もしかして、あの手紙も黒魔術の1つか?」


「……ちょっと何を言ってるのかわかん―――」


「そうか!そうだったのか!このド変態がぁ!」


蜂谷は右京の手刀が、自分の額に振り落とされるのを見た直後、意識を失った。


◇◇◇◇◇


「話は大体わかりました」


額に養護教諭からもらった冷却シートを貼りながら、ベッドの端に腰掛けた蜂谷は、保健室の天井を見上げた。


「つまり端折って言うと、永月と両想いだったってことでいいの…?それ」


「――待て」


右京の掌が翳され、蜂谷の身体が反射的に避けようと後ずさる。


「それは、早合点しすぎだ。俺はあいつに好きだなんて、一言も言われてない」


「え。だって、さっき俺に言ったこと、全部永月が言ったセリフなんでしょ?」

「うん。一言一句違わずに!」


蜂谷は頭をかばいながら右京を覗き込む。


「“心配なんだよ。どうしようもなく”」


「………」

右京がコクンと頷く。


「”俺のこの気持ち、わかってくれる?”」

コクン。


「いや、両想いでしょ。それ以外になんかあんの?」

言いながらベッドに両手をつく。


「今度こそコングラジュエーションですね」


「コングラッチュレイションズだ!ちゃんと複数形にしろよ!」


右京が睨むが、その顔は真っ赤に染まっている。


―――しかし、あの永月がねえ。


蜂谷は目を逸らした。


意外なんてもんじゃなかった。

あいつはノーマルのドストレートだと思っていたのに。

しかも、右京には何の感情も抱いてそうじゃなかったのに。


本気か?それとも―――。


「……ま、どーでもいいか」


「―――?」


「んで?晴れてホモカップルの誕生ですか?腐女子が喜びそーですね」


蜂谷の言葉に、右京がこちらを見上げる。


「俺、あいつに何も答えてない」

「えっ。返事してないの?」

驚いて目を見開く。


「なんかそれどころじゃなくって」


「ええ……。片思いの相手と想いが通じ合う以上に大事なことって何?」


「――――」


右京がこちらをぽかんと見つめる。


「―――は?」


蜂谷はなぜかこちらを見つめる右京に首を傾げた。


「―――お前さ。文化祭、出ろよ」


(………え。なぜそこに繋がる…)


支離滅裂なことをいう右京に目を細める。


「楽しそうじゃんか。宮丘学園の文化祭。出ないなんて、もったいねぇよ」


「――――え」


急に真剣な眼差しになった右京の顔を見つめ返す。


「イケメンカフェ、嫌だったら、やんなくてもいいからさ」


右京は頭を掻きながら言った。


「店や教室回るだけでも楽しいじゃん。な。来いよ」


「――――」


蜂谷は瞬きを繰り返しながら、なんだか今日はいつも以上に理解不能な右京を見つめた。


「会長は?ヤンキー時代、文化祭出た?」

聞くと、


「誰がヤンキーだよ…」

右京は鼻で笑った後、


「……ないよ、俺も。参加したことない」

言いながらこちらを見上げた。


「だから楽しみなんだ。密かに。女装はイヤだけどな」


「――――」


「じゃ、そういうことだから」


右京は一方的に言いたいことだけ言うと、保健室から出て行ってしまった。


「どーゆーこと……?」


蜂谷はため息をつきながら自分の腿に頬杖をついた。


「まあ、右京がわけわかんないのはいつものこととして……」


窓から昇降口を睨む。


「気になるのは、その手紙……だな」

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