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蜂谷はラブホテルのベッドの端に座りながら、ノートを取り出した。
忘れないうちに、先ほど金を持ってきた男の名前と、その金額をノートに書きこむ。
「なーに?それ」
枕から顔を上げた響子がこちらを振り返る。
「出納帳」
うっかり口を滑らせる。
「すいとう?なんか飲むの?」
「はは」
馬鹿でよかった。
笑いと共に白い煙を吐き出す。
「あれ?吸うんだっけ?」
「いや。そこに忘れたのがあった」
「えー、汚―い」
響子が笑いながら蜂谷の脇あたりに頭を乗せてくる。
「―――なあ」
「んー?」
「……会長を恨んでる奴なんて、いると思う?」
言うと響子は蜂谷を見上げた。
「会長を?」
「うん」
「………さあ?」
響子は意味深に笑った。
「何だ―?その顔。なんか知ってる顔だなー」
言いながら腕を外し、もう一度押し倒す。
「キャーこわーい」
棒読みで言いながら、響子がくすくすと笑う。
―――ビンゴだな。
蜂谷は胸の中でほくそ笑んだ。
この女は蜂谷以外にも数えきれないほどの男がいる。そしていろんな情報を仕入れては自分の匙加減で開示したり隠したりを上手に使い分けている。
そしてその匙は往々にして自分の恋愛的好みに準ずる。
つまり、彼女が想ういい男には有益な情報を与え、その男の情報は隠してくれる、ということだ。
どうやら一番ではなさそうが、蜂谷は自分が彼女の中で相当上の方にいるという自負があった。
「言えよ、ほら。白状しないと酷くするぞ」
言いながら、先ほど十分すぎるほどいじめた秘部に指を這わせる。
「なんでそんなこと、気にするの?らしくなーい」
その刺激に片目を瞑りながら、響子が見上げてくる。
「まるで会長を守るナイトね」
「―――は」
笑わせる。
「俺は、自分のおもちゃは人と共有したくない性質なんだよ」
響子は笑った。
「はいはい、そういうことにしてあげましょ」
言うなり蜂谷の腹を、足で軽く蹴った。
「――――?」
身体を仰け反らせて響子を見下ろすと、彼女はふっと笑って膝を立てた。
「蜂谷ってなんだかんだ、潔癖症よね」
「――は?」
「舐めるの、嫌いでしょ?」
言いながら足を開く。
むき出しになった陰部を見て、蜂谷は軽く吐き気を覚えた。
「それとも―――女が、嫌い?」
響子は楽しむように蜂谷の顎をつま先でくいと引っ掻けた。
「舐めて。私がいいって言うまで。そうしたら、ヒントくらいは教えてあげる」
◇◇◇◇◇
嫌というほど口と顔を洗うと、蜂谷は水面台に両手をつき、鏡に映る血の気の引いた自分の顔を睨んだ。
「―――クソ。あの雌豚……!」
しかし情報は手に入った。
散々嘗めさせて置きながら、響子が出したヒントはただ一つ。
『会長を恨んでる人。まあ、直接被害があった人ってのはいないんじゃない?何せ生徒会長だしねー』
響子は笑いながら言った。
『もし、彼を恨む人間がいるとすれば―――』
響子は飲み込めずに口の中に艶液を溜めた蜂谷を見つめた。
『彼が転校してきたことで、人生が変わっちゃった人、かもね?』
なかなか顔色が戻らない自分の顔を睨む。
―――あいつが来たことで人生が変わった人間?いるのか、そんな奴。
1月に選挙合戦はなかった。
つまりは、生徒会長に立候補したのは、あいつ以外にいなかったはずだ。
クラスでも生徒会でも基本的にあの調子だし、あいつが切れただの怖かっただの、強かっただのという噂も聞いたことがない。
自分以外にはあいつの本性を知っているやつはいないはずだ。
……いや。そうも言いきれない。
彼は蜂谷が館山東高校の名前を口にしたときも、館山の狂犬と呼んだ時も、別に焦った様子も無理に隠そうとする様子もなかった。
もしかしたら他の誰かに話しているかもしれない。
生徒会でひときわ仲のいい諏訪や―――。
永月なんかに―――。
「…………」
永月の爽やかな顔が脳裏に浮かぶ。
その彼が右京の唇を奪い、舌を挿し入れ、胸に指を這わせたのを想像する。
「――――」
蜂谷は途端に馬鹿らしくなって、身体を返して水面台に背中を付けると、ずるずると滑り落ちた。