【side:千景】
都希くんとセフレになったその日の夜、「この後だけど、誰かをおもてなし出来る仕様じゃないけど、良かったら家に来る?」そう聞かれた。
初めて都希くんの部屋に呼ばれた。今まではホテルしか使っていなかったから、まさか部屋へ行けるとは思ってもいなかった。本当に行っても良いのか?あまりの急展開に感情が追い付いていかない。
「行きます。」真顔で答えていた。
「おじゃまします…。」
「どーぞ。」
恐る恐る都希くんの後ろから部屋へ上がる。モノトーンで統一されたシンプルな部屋。セミダブルのベッドとテレビ…そしてゲーム機くらいしか置いていない。
『ここが都希くんの部屋…。』
都希くんの内側を見ている様でソワソワしてしまう。
なんだか良い匂いもする…。荷物を置いて上着を脱いでいる都希くんの横顔を見ると、すでにボーっとしたいつもの表情に戻っていた。
「明日も仕事だから、終わったらそのまま帰って。はい、これ鍵。閉めたらポストに入れといて。」
「わかった…」淡々と説明された。
「先にシャワー行くから、好きに何か飲んで待ってて。確かお酒もあるはず…。」
「うん。」
反射的に返事をしてしまった。酔いはとっくに覚めて変に頭の回転が良くなる。アドレナリンが出ているのか逆にスッキリした気分だ。酒…。
『飲めないのに酒があるって事は…』
会った事も無い他のセフレ達の存在を急に感じてチクっ。と胸が痛んだ。
シャワーの音が遠くに聞こえる中、どうしたら良いのかわからずに自分もカバンと上着を脱いでベッドに腰を掛けた。
『都希くんとセフレ…。』
何度も夜景でのやり取りを反数する。他人にならずに済んだ。セフレにしてもらえた。良かった…。良かった?本当はあまり良く無いんじゃ…でも他人なんて耐えられない。
『許してもらえた事は嬉しい。でもこれからどうしたら良いんだ…。』ぐるぐる考えているだけで答えは出ない。そこへタオルで髪を拭きながらスウェット姿の都希くんが戻って来た。髪の毛を下ろしてる都希くんはいつもとまた雰囲気が違う。
「シャワー行けば?それともそのままが良い?」
そう言いながらベッドに座る俺に近づいてくる。
「い、いや、行ってくる!」
・・・・
シャワーに入り、部屋へ戻ると、都希くんはうつ伏せで寝っ転がりながらゲームをしていた。
「ゲーム、好きなのか?」それは知ってるよ。
「うん。楽しいし、時間潰せるから。でももうセーブするからちょっと待ってて。」
ゲームをする都希くんを暫く見ていた。
たまに足を曲げてパタパタしている姿が可愛い。
「お待たせ、はい。」
そう言って仰向けになり俺の方へ両手を広げてきた。
またまた急な出来事に少し驚いたが、両手を伸ばす都希くんに重なり、今度こそ傷付け無い様に優しく抱きしめた。
セフレになったその日に繋がれるとは思っていなかった。興奮し過ぎて下半身が痛い。
「脱ぐ?」そう聞かれて、都希くんに返事の代わりにキスをしてからズボンを脱いだ。自分の腹に付く程勃っているのが分かる。
都希くんの後ろを慣らさないといけないと思い、都希くんの下半身に手を伸ばす。あれ?もう濡れてる?
「お風呂で準備したから大丈夫だよ。でも始めは優しく動いて欲しいんだけど。」そんな事までして準備してくれるのか?動悸がすごい。
「本当にもう、いいのか?」
「どーぞ。」そう言うと後ろ向きになっておしりを突き出してきた。
『セフレやばい!都希くんがエロい!!俺、すでに出そうになってる!』
言われた通りに、入り口で先だけ出し入れをしてからゆっくりと奥へ挿入した。「んーーっ。」と、都希くんから声が漏れる。
ゆっくり、ゆっくりピストンをすると「ん、ん、あっ、あんっ」と、すでに声が出ている。
「もう、強くして良いよ…。」都希くんからのゴーサインで一番奥まで突き上げた。
「ひゃ!!」今まで聞いた事の無い声がした。
「大丈夫?!痛い!?」恐る恐る聞くと、
「だい…じょう、ぶ。気持ち良くてちょっと出ちゃった。あとは好きにして。」と言われた。都希くんの全てが麻薬みたいだ。あまりの刺激に頭の血管が切れるかと思った。疲れていたのか俺が出すのと同時に都希くんは眠ってしまった。
あの都希くんが俺の隣で眠っている。
初めて寝顔を見た。正直、まだやり足りない。
でも都希くんとの約束通り、起こさない様にそっと部屋を出る。
改めてゆっくりとした都希くんとのセックスは気持ちが良かった。もっとサバサバしているのかと思っていたけど、実際は欲求が強いし、身体はツルツルで気持ち良いし、求められる時の顔が……。
『あれはズルい!』
深いため息と共に歩きながら都希との時間を思い出してしまいまた頬が熱くなった。
『でもセフレなんだよな…。』
それでも、乱暴にしてしまっていた事を取り戻す様に、新しい関係を大切にしたいと思った。
◆◆◆◆
僕が…
僕が自分を守るために決めた事。
それは…
相手に興味を持たない様にする事。
だって、相手を知れば知るほど別れが寂しいから。