「さとちゃんはほんまにかわええな」
そう言っても返事は来ない、とは言っても当たり前だ。
ラブドールなのだから。
桃色の髪、吸い込まれてしまいそうな蒼瞳。
今にも動き出しそうなリアル感に少し身を震わせながら、俺はそれを愛でる。
夜の街。がやがやとしてきた頃、ある一角にある店の前で足を止める。
目の前の看板には大きい字で、
ラブドール店 LOVE &Your
洒落た文字に胸を躍らせて、その中に足を踏み入れた。
店内は甘い香水のような香りがして、
綺麗な女や男達がずらりと並んでいる。
「この子がええ!この子にしよ」
選んだ所の値札には500万、satomi。
「さとみ?…さとちゃんか、よろしゅうな」
買い物を済ましたラブドールの頭をそっと撫でた。
もし、彼が生きていたら… 考えてしまう。
大好きな子と、話せて、笑えたらどんなに幸せだろうか。
さとみの方に目を向けると、なんだか困ったように、寂しいように笑ったように見えた。
「好きやで、…永遠に」
ぎゅっと抱締めてもそれは冷たい。
判っていても、悲しい。やだって思ってしまうのは、仕方がないことなのか。
「いや”っぁ」
目の前では悲鳴を上げるさとみと、黒い服の怪しい人。怪しい人は、自身のポケットから取り出した紫の液体の入った瓶。
さとみの口を無理矢理開けさせる。拘束されて、逃げ場もないさとみの口に紫色の液体を流し込む。
すると、さとみは急に動かなくなる。ぴたりと時間が止まったみたいに。
いつものさとちゃんみたいに、時が止まった。
何も出来ない俺が悔しい。ふと下を見る。
すると、暗い部屋に紙が一枚落ちていた。
「俺生きてたんだよ。殺された。
俺も,じぇると本当は話したい。笑いたいよー
ベッドから飛び起きて、さとみを抱きしめた。
俺が目を覚ます方法は、キスをすることー、
心の底から愛されること。
まだ冷たい唇に俺の口を重ね、溢れんばかりの好きを口付けに乗せる。
「ぁ、…じぇ、る?」
「っ!!さとみ…さとみ。会いたかったで」
涙が溢れる。夢の中の声と同じ。
「俺も、じぇると一緒に居たかった–。」
儚くて、でも確かにそこにある。
動きのあるさとみを見ていると我慢できなくなる。大好きが、溢れてくる。
「好きやで…ずっと。」
「俺も、…大好き」
しっかりと熱のこもった唇に、もう一度幸せを噛み締めて…それを確認するようにそっと、だけど溶けてしまいそうなほど甘く、口付けた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!