◆上層宗教街廃墟・中央礼拝塔跡
流鏡は笑っていた。愉快そうに、気味が悪いほどに。
「──で? それが君の限界?グレイとのお涙頂戴で、僕が感動して泣いて止まるとでも?」
ガラ・スーグ。
元護井会、元官僚、現魔物。
感情をなくしてなお、自我を残した“異常個体”。たった一度の記憶を抱え、たった一度の言葉を守り、“彼”は立っていた。
……が──それだけだった。
流鏡の指が鳴る。その瞬間、上空から落ちてきたのは「白階製懲罰兵器」。
対異能封殺──物理攻撃特化型の“純鉄杭”。
魔物になったガラの硬質な皮膚も、高熱にも耐える外殻も、まるで紙のように貫かれた。
──ズドンッ。
杭がガラの胸を貫き、背中を砕き、地面に突き刺さる。コンクリートが砕け、黒煙が舞い上がる。
流鏡は、すでに踵を返していた。
「……バイバイ、ガラ君。愛は最弱、鉄は最強──残酷な世の真理ってやつ?」
魔物のガラ、反応なし。生命反応消失。
彼の手には、砕けた胸腔の隙間からこぼれ落ちた、小さな欠片。半透明の石。
断章記憶《記録結晶》。
魔物になった今なお、消えずに残っていた。
──それはたった一つの音声。
そして、再生すら許されない“個人的な祈り”。そのとき。風が吹いた。
“誰も聞けない記憶。誰にも見せられない映像。ただ、一人の男が“誰か”のために生き、そして死んだ──それだけだった。”
“けれど。もしその記録が、誰かの心の井戸に、そっと沈んでいたとしたら──”
“それは本当に『無意味』だったのだろうか?”
ミルゼは戦場へと走っていた。
誰にも気づかれぬように、ひとり、静かに。
──ガラの気配が、消えた。
止まる足。
握られた拳。
涙を浮かべるでもなく、叫ぶでもなく。
ただ、小さく──呟いた。
「……遅かったか。すまん」
彼はそれでも歩き出す。
刃を手に。
「なら──あいつの分まで、俺がやる」
杭に貫かれたガラの死体。その目は閉じておらず、ほんの僅かに笑っているようだった。
コメント
1件
今回も神ってましたぁぁぁぁぁぁあ!!!!! あ、ぁぁぁ...!?ガラすわぁぁぁん!!? しっかりしてくれぇ...!!生き残るんだろ!?約束したじゃないか!?(してません) くそぉ...うちの癖にぶっ刺さってて憎みたくても憎めねぇ...() 次回もめっっっっさ楽しみいいいいいいいいぃ!!!!!