コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第7話 「シャルル・マーレ」
前回のあらすじ
服屋の店主ロブロンに着せ替え人形のように遊ばれた。
「……」
どんよりとした顔の奏の両手には、5着の服がかけられていた。水色の大人っぽい下着1セットに、女の子らしい白色の服に黒のオーバーオールにヒラヒラした短いスカートの服、透き通るほど白いワンピースのような寝巻きに、仕立て直してくれた女神がくれた服。そして……
「……メイド服はいらなくないですか?」
「まぁまぁ、思い出の品だと思って、ねぇ?♡」
まあ半額だし、貰っておこうか……
と、値段を優先する奏。シャルルも服を選び終わったのか、紙袋を両手で大事そうに抱えてニッコリ満足そうに笑っていた。
「…可愛い……」
ロマンジと奏は、一生でその1度だけ心が通じあった……
その後、メイド服を含め買った衣装を紙袋に詰めて貰った。靴をコツコツと鳴らしながら道を歩いていると、ガツガツと音を鳴らしながら歩いていく鎧の男の姿がみえた。
「冒険者協会……」
「やっぱ、憧れるっすか?」
冒険者……異世界に来たなら、なってみたい。
と、転生した時から思っていた。
「カナデもなろうと思えば今からでもなれるっすよ。」
「え?そうなの?試験とかはなく?」
「そういうのは、階級が上がる時の昇格試験の時しかないっす。」
奏はもう一度冒険者協会を見つめた。いつかなりたいと夢見ていたものが今…目と鼻の先にあるのだと、ワクワクしている様子だった。
「もし冒険者デビューするなら、また明日一緒に行ってあげるっす。ここは先輩冒険者であるシャルル・マーレに、どんと任せるといいっすよ!」
「シャルル……」
なんていい子なんだ……と、少し妹のことを思い出しながら、奏たちは宿へ戻った。
「……やっぱり一緒に入るの?」
「何回も言ったっす。宿代が2倍になるんで、お風呂は一緒に入るっすよ。」
部屋につき、お風呂に入ろうとした奏。当たり前かのようにシャルルも脱衣所まで着いてきた訳だが…奏だって元々は男。やはり抵抗があるのだ。
「カナデも、私のこと嫌いっすか?…」
「え?いや!そんな訳じゃ……」
「みんな…私のことを嫌っていたっす。勇者の家系なのに出来損ないで生意気で、でも顔だけはそこそこ良くて……」
「ん?え?勇者?」
「あぁ、言ってなかったっすね。マーレ家は代々、暗殺者の勇者を生む家系なんす。勇者の素質があれば、胸の当たりに紋章が浮き上がるんっすけど……私はその才能が欠如してるらしいっすw……だから小さい時に親に捨てられて……それで……!」
気づいた時には、奏はシャルルの頭を胸に押し付け…抱きしめていた。
こんなシャルルは見てられない。必死に涙をこらえているけど、本当は泣きたくて仕方ないはずだ。なら、俺が泣き場所にならないと……
「そんなことない。シャルルすごいよ……私なら、とっくの昔に死んでるよ。だから…もう泣いていいよ。シャルル。」
奏はシャルルのことを優しく包み込み、子を愛でる聖母の如く暖かい手でシャルルの頭を撫でる。泣いていい。泣かないとダメだ。
こんな小さい女の子が、シャルルがこんなに辛い過去を持っているなんて……放っておけるわけがないのだ。
「……ちょっと…目閉じててくださいっす…」
奏は、言われるがまま目を閉じた。泣いているんだろう…奏の脱ぎかけの服をじわじわ湿らせ、奏の肌まで濡らしていた。今までの強がりがまるで嘘かのように、目が枯れるまで泣きじゃくっているみたいだ。
「私…今まで怖くて…怖くて怖くて、必死にがんばって……でも、誰にも…誰にも認めて貰えなくて……それでも私……」
「わかってるよ。私はわかってるよ。シャルルがすごいことも……出会って日が浅いけど、私だってそれなりに分かってるつもりだよ? 」
あの話し方は、自分を強気にするおまじないのようなものだったらしい。
私のことを信用してくれてるんだろう。なんだか胸の当たりがむず痒い。
「ありがとう……カナデ…それと…… 」
「ん?どうしたの?」
「案外胸、小さいんっすね……w」
「……てい」
「あ痛」
シャルルに軽くチョップをカマした奏だったが、同時に…自分の素朴な胸を見て、一緒に涙が出そうになっていた……
…Cカップくらいだと思うんだけどな……
その後、泣き止んだシャルルをベッドに寝かせて…一人外の空気に当たっていた。いつもの賑やかな街とは違い…少しの物音も聞き逃せないほどに静まり返っていて、まだ明かりが付いているのは酒場か宿くらいだった。
シャルルがあんな思いをしてたなんて…ちょっと無神経だったか?
今更ながら、シャルルへの関わり方に後悔の念を抱いていた。
「いや!」
ぺちっぺち!と、自分の頬を叩いて気合いを入れ直す。
「明日はシャルルと冒険者協会に行くんだ……こんな弱気じゃ冒険者になんかなれないよな!!」
自分のジョブのことや、これからの冒険の日々を想像しながら、シャルルのいる宿へ戻った…
第7話、おしまい。勇者の家系…これから書かないといけなあことが多くなりそうです。
次回第8話。「冒険者デビュー」