26
ふと、目が覚める。
『・・・』
記憶。
そのほんの一部を見た。
あの子は、
間違いなく、琥珀さんだ。
琥珀さんと、初めて会った日か。
その琥珀さんは…
‼︎
『琥珀さん!』
僕は上半身を勢いよく起こし、辺りを見回す。
と、
『元気そうだね。』
桜乃さんがいた。
『さ、桜乃さ…』
桜乃さんが、口に手を当ててきた。
?
『静かにね。』
桜乃さんが指を差していた。
その先に…
琥珀さんがいた。
どうやら眠ってしまったようだ。
僕は、桜乃さんに頷いた。
『体調は大丈夫?』
体調…
あれ?
思っていたより全然良い。
『もう、大丈夫ですよ。』
ましろさんのおかげだろうか。
『なんか傷の治りが早くない?』
ましろさんのことを話しても、信じてはくれなさそうだ。
『そうかも。』
そう答えた。
『そうかもって…』
どれくらい眠ってたのか、わからない。
『花咲さんに伝えてくるね。』
そう言って、桜乃さんが部屋を出て行く。
『ん、んんぅ〜』
琥珀さんが、苦しそうにしていた。
僕は、琥珀さんの頭を撫でようとした。
けど、
嫌がられたんだったな、
今の僕は、琥珀さんに触れる権利がない。
せっかく、僕のことを信じてくれてたのに…
僕が傷つけて、裏切った。
『うぅっ、くぅっ!』
こんなに近くにいるのに…
悔しい。
僕は、横になる。
そして、何もない天井を見る。
『何が正しいのか、わからないよ…』
『正しいとは、その時によって変わるものなんだよ。』
と、
花咲さんがいた。
『なーに思い詰めたような顔して。振られたの?』
『違いますよ。…いや、合ってるかもしれない…』
振られたのだろうか。
『え、マジ?指輪してるのに?そんなことありえる?』
琥珀さんが指輪してるの、知ってたんだ。
『僕のせいなんですよ。僕が傷つけたんです。』
『ふーん。ま、少し聞いてたけどね。でもアタシが思うに、琥珀は甘太郎のことを本当に嫌いだとは思ってないんじゃないかな。』
『え?』
『大嫌いって言ったのは甘太郎ばかり傷ついて欲しくなかっただけだろうし、頭を撫でられるのを嫌がったのは頭に怪我があるからなんじゃない?』
『・・・』
琥珀さんを見る。
『甘ちゃんって、ほんと危ないことばかりするよねー。自分が怪我することに躊躇ないみたいだから見ててヒヤヒヤするよー。後が面倒だからやめてほしいわー。』
花咲さんが、変な声で言った。
琥珀さんの真似をしているつもりなんだろうか。
『似てないですよ。』
『失礼な!』
『でも、ありがとうございます。おかげで元気出ました。』
琥珀さんの頭には包帯が巻かれている。
まぁ、そうなのかもしれないな。
『甘太郎も琥珀も、自分より周りばかり気にしちゃうタイプみたいだから、そういうとこも考えた方がいいよ。甘太郎は特に気にしなさすぎてポックリいきそうだから。』
そう言って、
僕の服をめくりあげる。
『ぬあ!』
『変な声出すなー、キモいぞ。』
『・・・』
キモいと…
『安心しろ。傷の確認するだけだから。』
そうですか…
いきなりされると怖いよ。
『もう傷治ってんじゃん。生命力ゴキブリ並みじゃん。』
『その例えやめて…』
Gと一緒にしないで…
虫苦手なんです…
『いや普通なら、もう天に召されてる頃だよ。なんで生きてるのかわからないんだけど。それどころかなんで傷が跡形もなく消えてんの?普通なら、まだバ○オ状態だよ?ほんとに人間?』
『その例えもやめて?』
グロテスクゲームと一緒にしないで…
グロいの苦手なんです…
傷は、ましろさんが治療してくれたからだけど、
それは言えない…
『まぁ、身体の方に異常はなさそうだしいいか。特に問題はなさそうなので事務仕事に戻るから、なんかあったら呼んでねー』
そう言って、花咲さんも出て行く。
『っと。最後に、あの男のことは隠しているらしいから、甘太郎は人殺しとして扱われないってさ。』
それだけ言って、扉を閉めた。
『え、』
どういうことだ?
人殺しとして扱われない…
まさか、
『僕のために…』
隠しているのか、
僕は、琥珀さんの方を見る。
本当に、花咲さんが言ったことが正しかったらいいんだけど…
琥珀さんはまだ、起きない。
床に座って、ベッドの端に腕と、その上に顔を乗せて…
この体制、きついんじゃないかな。
でも頭を怪我しているから、横になれないのか…
『……あま…』
琥珀さんが寂しそうに言った。
『僕なら、ここにいるよ。』
琥珀さんに向けて、優しく言った。
『んん、あま…?』
琥珀さんが目を覚ました。
『琥珀さん…ごめ、』
『あまっ!』
!
琥珀さんが抱きついてきた。
『ぇ、琥珀…さん?』
『あまぁ!あまぁっ!』
琥珀さんは、僕から離れようとしない。
そして、気になるのは、
あま?
いつもは甘ちゃんと呼ぶのに、
今は、あまと呼んでくる。
『ううっ、あぁっ、』
琥珀さんは泣いていた。
僕は、頭の代わりに背中を優しく撫でる。
琥珀さんはしばらく、そのまま泣いていた。
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