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その日の夜、アントンが部屋にやってきて、すごくうれしそうに僕を見て言った。
「ヒョンにね、聞いたよ。ウォンビニヒョンのこと」
「ヒョン?」
「決まってるでしょ、ウンソギヒョン」
何を言ってるんだ、こいつは。血の気が引いた。
ギターを抱えてソファに座っていた僕の隣に、アントンはどかっと座って遠くを見つめている。
「大事にしないなら、僕がもらっちゃうよ、って」
反応を楽しむかのように僕を見て冷たく笑う。
「勝手にしろ、だってさ」
その言葉を聞いた瞬間、僕はどんな顔をしていたんだろう。
ああ、それが答えなんだ。やっぱり僕じゃもうダメなんだ。
アントンは僕の肩を抱いて、子供に言い聞かせるようにつぶやく。
「真に受けてるでしょ」
「……え?」
「だからすれ違うんじゃないの、ふたりとも」
からかわれてた。悲しみが一気に怒りに変わる。
「お前……なんでそんな……!」
食って掛かる僕に、アントンは優しく微笑んだ。
「ウンソクさんは、あの人は……変だけど優しい人だよ。ヒョンがいちばんしってるでしょ」
いちばんじゃない、きっと。僕がいちばん知らない。
「お前といる方が幸せそうだ。幸せにしてやってくれ、って」
言ってた。アントンの声が耳元に落ちるのと同時に、僕は涙を流していた。