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ニーナちゃんを探してきます、と先生に言ってから俺も教室から離れた。
これはサボりじゃない。ちゃんと先生から頼まれた仕事だし、と誰にしている言い訳か分からない言い訳をしながら、掃除しているクラスメイトたちを避けて階段に向かう。
そして俺は歩きながら『探索魔法』を使った。
探すはこの学校で俺の次に魔力総量の多い人物。
ニーナちゃんは自分でも言うように第四階位。いかに小学校に数百人いるとはいえ、第四階位以上の魔力を持っている人間は俺とニーナちゃんだけである。
というわけで、そこにターゲットを絞れば良いというわけだ。
『形質変化』させた『導糸シルベイト』はまるでコンパスの針のように回転すると、矢印になって階段の下を指す。ニーナちゃんは階段の下にいるらしい。掃除の時間をサボって何をやっているのやら。
だが、階段下を指したことでちょっと俺は安心した。
もし彼女が女子トイレにいれば探すに探せない。
『探索魔法』の示すままに俺は歩みを進めると、俺の足は校舎裏へと向かった。
外に出ると児童の数は急に0になる。
それもそのはず。こんなところを掃除する班は無い。
もしかして、誰にも見つからない場所でサボってるのかな。
そんなことを考えながら、ニーナちゃんの足取りを追うと遠くから声が聞こえてきた。
「……イツキは授業中にもずっと魔法の修行をしてるのよ。あんなのズルだわ」
そう誰かに話しかけるニーナちゃんの声。
一体、誰と喋っているんだろう?
うちの小学校はスマホの持ち込みが禁止なので、電話とは思えないのだけど。
そう思って俺は校舎の影に隠れるようにしながら声のする方に向かって顔を出すと、そこには裏門に背を付けたニーナちゃんがいた。そして、彼女の目の前に浮かんでいるのは紫色の煙のような、モヤみたいな、不・思・議・な・も・の・。
……なんだろう、あれ。
じぃっと目をこらすが、その紫色の何・か・から『導糸シルベイト』が伸びている様子は見えない。そうならアレは魔法じゃないのか。だったら、モンスターか……?
そう思い、祓うために体内で魔力を練るが……一方、それと相対しているニーナちゃんは紫色のモヤを前にして慌てている様子もなく、話しかけていた。
「……ううん。ダメよ。ママは私に、魔法を教えてくれないもの」
ニーナちゃんの言葉に、紫色のモヤがぶるぶると震える。
「え? イツキに? それはダメよ! 勝てなくなるもの」
端から見れば一人で喋っているヤバいやつだが……どうにも、俺には彼女の目の前にいる紫色のモヤと会話しているように見える。モヤの方もニーナちゃんに襲いかかる様子はなく、むしろ逆に諭さとすかのように震えた。
てことは、あれはモンスターじゃないのか……?
俺は心の中で首をかしげるが、答えが返ってくることはない。
だが、俺はすぐにそれに心の中で首を横に振った。
いや、ニーナちゃんに聞けば良い。
もしかしたら、それが接点になるかも知れないし。
だから俺は足を前に踏み出すと、こちらに気がついてないニーナちゃんに声をかけた。
「ニーナちゃん! 探したよ!」
「……何?」
その瞬間、こちらに気がついて露骨に不機嫌そうな顔になって、俺を見てくるニーナちゃん。
「イツキは先生に呼ばれて来たんだろうけど、私は掃除しないわよ。そんなことよりも大事なことがあるもの」
「何が大事なの?」
「魔法の修行しゅぎょーよ! 私はイツキに勝つんだから」
そう言ってそっぽを向くニーナちゃん。
いや、さっきお母さんが魔法教えてくれないって言ってたじゃん。
という言葉が喉元まで出かけたが、これを言うと覗き見していたということを自分からバラすことになっちゃうのでぐっと我慢。
俺に自信満々に言い切ってそっぽを向いたニーナちゃんだったが、さっきから紫色のモヤを隠そうという素振りを見せない。ならこの紫色の煙みたいなやつについて、聞いても良いのかな……?
「ねぇ、ニーナちゃん」
「何よ」
「これって、ニーナちゃんの魔法?」
そういった瞬間の彼女の反応は、凄かった。
びびびッ! と、まるで猫が全身の毛を逆立てるみたいにして驚くと、見たこと無いくらいの勢いで俺の肩を掴んだのだ。
「イツキは私の精霊フェアリーが見えてるの!?」
「……精霊?」
がし、と肩を揺さぶられながらそう聞かれて俺は思わず問い返した。
「そうよ! 精霊フェアリー。私が作った、私にしか見えないモノよ!」
ニーナちゃんはそういうと、紫色のモヤに目を向ける。
ふわり、とモヤはニーナちゃんに応えるように踊った。
「……やっぱり、見えてる」
そう言いながら、ニーナちゃんは俺の両目を深く深く覗き込んできた。
その蒼い瞳が俺の両目いっぱいに広がって、まるで空とか海をずっと見続けた時みたいに意識が飲まれかけている俺に向かって、彼女は静かに言う。
「イツキは持ってるのね。『魔眼』を」
「魔眼……?」
そんな大層なものは持ってないが。
「ううん。僕のはそんなものじゃないよ。僕は他の人の『導糸シルベイト』が見えるだけだよ」
「……『導糸シルベイト』?」
「これ」
そういって俺は手から『導糸シルベイト』を伸ばしたが、『真眼』を持っていないニーナちゃんには見えないようで、首を傾げていた。
「『導糸シルベイト』は魔力を練って糸にしたものだよ。これを伸ばして色んな魔法を使うんだ」
「……し、知ってたけど!」
絶対知らなかったでしょ。
だが俺はそれを指摘したりはしない。大人なのだ。
「とにかく! 魔法を使・う・前・の・魔・力・が見えるんでしょ? それは『魔眼』を持ってないと見えないの! 魔・力が見えるから『魔眼』!」
ニーナちゃんは俺の目から離れると、そう言った。
確かによく考えたら祓魔師もエクソシストだし、階位についても呼び方違うから、『真眼』の呼び方が違ってもおかしくはない。
というか、俺の目は魔眼なのか。そのうち勝手にうずいたりするのかな。いや、まぁ『導糸シルベイト』が見える以外は普通の眼なんだけど。
しかし、そうか。
ニーナちゃんは『導糸シルベイト』を知らない。その代わりに、『精霊フェアリー』という俺の知らない言葉を使った。
それの意味することはただ1つだ。
彼女は俺の知らない魔法を知っている。
……知りたい。
その魔法を、見てみたい。
俺の好奇心とも、生存欲ともつかない気持ちが強くうずく。
もしかしたら、それは俺の知らないところまで連れて行ってくれるかも知れないのだから。
だから俺は、ニーナちゃんに言った。
「ねぇ、ニーナちゃん」
「何?」
「僕に魔法を教えてよ!」