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「ぅ”ッ……痛で”で”」
目が覚めると赤い絨毯の敷かれた社長室の様な場所に倒れていた。
何故か腰が痛い。触って確かめようとすると、手足が縛られていることに気づいた。
俺、縛られるようなことしたっけ。
そんなことを考えていると、1人の男性が入ってきた。
少し長めの前髪にウルフヘアでタレ目の可愛らしい男性。だぼっとしたパーカーを身にまとっている。
「君が瀬口悠隼君?」
柔らかい笑顔で聞かれ、悠隼は咄嗟に返事をしていまった。
「あ……はい、悠隼です。」
「へぇ~、かわいいねぇ。あんな奴らから産まれたとは思えないよ。僕のお嫁さんにぴったりだなぁ。」
その一言に数々の違和感を覚えた。
あんな奴らとは悠隼の親なのか。
そしてこの人はなぜ親のことを知っているのか。
お嫁さんとはどういうことなのか。
突っ込む要素がありすぎて悠隼はついに黙ってしまった。
口から出てきた疑問は一つだけ。
「あなた……、誰ですか?」
「あ~、やっぱりそーだよねぇ。僕は獅子中 冬弥。君のお母さんにお金を貸していた人だよ。」
想像もしていなかった返事に悠隼が唖然としていると、冬弥は話を続ける。
「あいつ、僕のところに来て挨拶もそこそこに金を貸してくれって。馬鹿な女だよねぇ。返せもしないくせにさ。億単位だよ?この前も……」
話を続ける冬弥に、悠隼は何とも言えない感情を覚えた。
憎さ、怒り、苦しみ、悲しみ、後ろめたさ、悔いが悠隼の中で渦巻いている。
次の瞬間、悠隼は自分でも想像していないくらい低く肯定のある声で物を言っていた。
「……お前か。」
「…へ?」
「お前のせいで…お前のせいで俺の人生がめちゃくちゃになったんだ!」
あまりの剣幕に冬弥は身を引く。
「ちょ、落ち着い…」
「ふざけんな!お前が母さんに金貸さなかったらこんなことにはならなかったんだよ!!どうせ返せないって分かってたくせに!何が馬鹿な女だよ!人の不幸を笑って見やがって。親から愛されて育ったお前なんかには分かんないよなぁ!お前さえ居なければ……俺は…俺は……」
自然と悠隼の目から涙が零れ落ちる。
冬弥は眉尻を下げ、何とも言えない顔で悠隼を見る。
暫くして冬弥は泣きじゃくる悠隼に言った。
「君が俺を恨む理由は分かってる。君が生きてる間に借金の返済が出来ないことも。……だからさ、取引しようよ。
僕は寂しい。だから、君は僕のそばにいて。君が愛に飢えてるのも知ってる。君が家にいる間は僕がありったけの愛をあげるから。君がいる間は僕が養ってあげるし、それで借金もチャラ。君はただ僕から与えられるものを待つだけ。……どう?いい取引だと思わない?」
冬弥は分かっていた。愛に飢えた人間の心に漬け込み、利用するのは悪い事だと。
だが、それでも寂しかった。
悠隼は顔を上げると、縋るように冬弥に言った。
「あんたは俺の事…愛してくれる?」
それが悠隼の切ない願いだった。
小さい頃から親との中は良好でなく、喧嘩をするだけの毎日。
愛されたいだなんてこれっぽちも思わなかった。
だが今はどうだ。
起きて、バスに乗って、仕事をして寝る。
悠隼には愛が足りなかった。
涙目の悠隼を見て、冬弥はにやりと笑った。
「うん。約束するよ。」