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…遠くから綺麗なピアノの音が聞こえる
まるで透明なこの世界にそれしかないみたい
とても心地良くて、優しい音色
一音一音が耳の中を擽る
私はこの音色を出している弾き手が気になった
「だぁれ?」と声を出したら見た目と反した幼い頃の声が出た
ピアノの演奏がピタッと止んだ
少し経ってから奏者がクルンと向きを変え私を見た、
随分と幼い子だった、八歳ぐらいだろうか
暗い髪が耳に掛かり、風で揺れている
瞳は蒼く、深い湖の底よう
油断していると吸い込まれそうだ
私はその人を知っている、いや知っているはず
足を先へと、彼の元へと運ぶ
何故か彼に近づくにつれ足が重くなった
「はるちゃん」
私の愛称…彼は私を知っている?
それも親しい仲なのだろうか
「はるちゃん、ごめんね」
彼がそう言った瞬間
横から波が押し寄せ彼と私を遠ざけてしまった
行かないで、涙が波に比例してボロボロと零れる、また…ピアノの音が聞こえる
ふと彼の記憶が脳内を駆けた
どうして、どうしてだろうか忘れていたのは
この音色は彼の…
見知った天井が目に入る
ここは私の部屋…?私は最近まで病院で寝泊まりしていて記憶が混濁していたのか、分からなかった
ふと、左右を見渡すといつのかも分からないぬいぐるみや古くさい時計があった
とりあえず、さっきのは夢だったようだ
彼からは懐かしい雰囲気がしたが、今となってはもう思い出せない
カチカチ
時計の針が午前4時半を伝える
まだ寝足りない、そう思い
寝ぼけ眼を擦った
あれ?なんで涙なんか…
夢で泣いていたのは分かっていたが現実でも泣いていたとは…
なんだが悪夢を見た子供のようで恥ずかしくなった
ふわぁ…
欠伸がてで眠いのを再認識した
夢の事など忘れよう、もういちど寝て夢を見るのなら面白い夢がいい
そう涙で濡れた右手を見ながら思った
…は、る
…はる、
声がする、それもうるさく
…はる、か
まだ寝たい、五月蝿い
うわぁ!
ほぼ怒声とも取れる、母親の声で布団から飛び起きた
「あんた今日学校だがね!遅刻するど!?」
夢で聞いた優しいピアノの音とは反逆に騒々しい音で起きてしまった…
「これなら泣いて起きた方がましだ…」
「あんたなんか言った!?」
「なんも言ってないよ、お母さん」
私はそういうと忌々しく布団を畳み始めた
「ご飯の用意できてっから早くきなよ!!」
と言い残して行くと階段をバタバタと駆け降りってった
まったく、忙しい人だな
溜め息混じりにクローゼットからセーラー服を丁寧に出し着替えて行く
私の中学はセーラー服で可愛いけど瞳の学校はちょーダサいんだよねぇ…と転校していった友達が愚痴っていた事を思い出しふふっ笑った
あっという間に一式が完成し
鏡で最終チェックに入った
よし、これでいいはず…今日から新たにつける2年生のバッチを煌めかしく胸元に付ける
今日から私は中学2年生の
とニヤニヤしながら声に出すと下にいるお母さんに聞こえていたようで「そんな事いいから早よご飯食べな!」と一掃されてしまった…
恥ずかしさとうざったさでいつもより大きく、**はーい!**と投げやりに言った
下のリビングへ行くとお母さんがテレビを見ていた
こちらに目もやらずテレビに夢中のようだ
呆れながら椅子に腰掛け、テーブルに置いてある目玉焼きとトーストを食べ始めた
…まぁ、いつも通りの味だ、美味しい
本当はサラダも欲しいところだが、お母さんにそう言ったら十中八九怒られるだろう、
はぁと大きく溜め息をついた
夢で見た男の子、何処かで見たはずなんだ
…お母さんに聞いてみるか
いや、やめておこうか、ありもしない記憶で混乱させてしまいたくない
そう思い、残りのトーストを口に放り込んだ
朝食を食べ終わり、仏壇にお辞儀をする
私の兄だ、小さい頃に交通事故で亡くなってしまったらしい
時間もそろそろ近づいてきたしそろそろ行くか靴を乱暴に履き、学校へと向かった
私の家から学校へは若干遠かったがそれ以上にお気に入りの場所だった
海が見えるんだ
高台を下る坂道で海が見える
とっても綺麗でいつも見惚れてしまう
「好きだなぁ…」いつもならガードレールに手を掛け自転車をそばに置いてじっと海を見てしまうが今日は遅刻したくなかったので
早めに切り上げ自転車を漕ぎ始めた
学校に着き、自転車を停めて
校内へ入る