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十八時四十三分
だれか、た、た、助けて
そんな声が耳に響く。
繁華街特有の眩しい看板、色とりどりの光、喧騒、それら全てをかっ飛ばすように聞こえたその声は、自分にしか聞こえていないような、所謂幻聴に近いものであろうと理解は直ぐにできた。
そういえば、朝もこんな声が聞こえた気がする。
前から頭の中に潜む、モヤモヤとした明確に見えない不安。
心の中に抱えた冷たさ、カラッポの感覚。
ぼやりと考えて夜空を眺めたのは常田一真という男だった。
突如感じ始めた虚しい気持ちに浸る暇は無く、いつもの交番勤務をしている”フリ”に戻ろうとする。
周りをなんとなく見る為に一度振り返ってみると、大きい銃声が街の喧騒を潰した。
あまりにも急な事だったので、先程までひどく聞こえていた足音が止まった。
無音の空間が、この町に広がった。
静まり返った空間を、潰された声達が再び埋め尽くし始める。
我々は日本人だ、銃声なんぞ聞こえてしまえば、アメリカ人でもないんだから危機を感じるのは当然だ。
「なんだ、なんだ」「なに」
「えー、こわい」「ねえ、この人!」
円のように群がる人々の目は、太陽の光が虫眼鏡で一点に集まるのと似た形で、ただ、倒れて血を流す男を見つめる。
その男は前方に倒れており顔は見えないが、ストレスによってまばらに生えた白髪が血に染まっているのと、着けた黒い手袋が助けを求めるかのように指の間接を曲げさせていたのは、後ろ姿だけでも分かった。
常田一真は警察だ。
繁華街である楽蔵町付近に設置された交番に務めていて、若く、色白く、睫毛が長く、鼻筋は真っ直ぐと、全体的に顔が整っており、正しく容姿端麗。
イケメン警察だなんて呼ばれたりしていなくもない。
その警察の欠点は、あまり仕事へ真面目に取り組まない事。
ただしこんな状況下でも何もしないような、重度のサボり警察では無い。
遺体周辺の人々を他の場所に誘導し、他の警察を呼んだ。
「ここから離れてください、帰った帰った」
刑事達は時間が経てばこちらに来て、華々しかった街に、黄色いキープ・アウトの文字が垂らされた。
六時十五分
朝、目覚める。
仕事に行かにゃならないのか、と一真は在りし日に憧れた夢に対してそう憂鬱な気分でいる。
誰か助けてくれ
そう声が耳に響いた。
こんな朝っぱからから叫ぶ人間は冷静に考えていないだろう、俗に言う幻聴であると認識する。
冷静に考える事が出来る余裕があろうと、それでも不安があった。
どこか感じるモヤモヤとした、明確に見えない、何か。
─前も声を聞いたような、
そんな気がしたからだ。