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こんなに緊張したことはないっていうほど、朝から気が張っていた。
ゴールデンウィークのイベント初日は見事な晴天で、子どもから大人までたくさんの来場者が期待された。
何度も打ち合わせて準備を重ねてはいたけど、いよいよ本番を迎え、私やあんこさんまでがソワソワしていた。
「こんなの初めてだからドキドキするわ~」
胸に手を当てながら、そう言ったあんこさん。
今日も相変わらず美人だ。
「ほんとですね。こんな素敵なところで販売できるなんてすごいですよね。あんこさんのパン、絶対大人気です! みんなが笑顔であんこさんのパンを食べてるのを想像したら、それだけで嬉しくなります」
「ありがとね、雫ちゃん。その言葉でちょっと気持ちが和らいだわ。大人気になっちゃったら忙しくなるね~頑張らなきゃね。雫ちゃんも、パン教室頑張って。絶対に大丈夫だからね」
あんこさんは、私の手をしっかりと握ってくれた。
温かい手……とてもホッとする。
そのやり取りで、固くなってた表情がお互い少し柔らいだ。
イベントが行われる会場はかなり広い催事スペース。
全体的に、森の中にあるたくさんの可愛いパン屋さん――みたいなイメージで作られている。
作り物の木々、ところどころには本物の観葉植物なんかを使ってて、都会から離れ、ちょっとした森に迷い込んだ感覚になる。
そんなマイナスイオンを感じるような素敵なところに、有名なパン屋さんがずらりと並ぶ。
さすが榊グループ。
名前の通った素晴らしいお店ばかりで、自然にテンションが上がる。
お客様も食べ比べができるのを楽しみにしてることだろう。
パンの香ばしい良い匂いがそこら中に漂ってて、パン好きにはたまらない空間になってる。
買ったパンを持ち込んで食べられるカフェも併設されて、木製のテーブルとイスで、木のぬくもりを感じながら焼きたてのパンを食べることができる。
決まった時間になると、着ぐるみの可愛らしいウサギさんとクマさんが登場して、子ども達とのミニ撮影会も行われるらしく。
森の中の動物たちがパンの美味しい匂いにつられてやって来た――そんな、ちょっとした物語を想像させる。
前田さん達は本当に楽しいことを考えてくれて、私まで絵本の世界にいるような気持ちになって心が踊り出した。
パン教室は、その会場のすぐ隣に元々ある料理教室用のキッチンを使うことになってる。
パン売り場の世界観と同じ雰囲気を出すために、教室にも大きな木や動物やお花なんかを色画用紙で作って壁面飾りとして貼り付けてくれて、すごく可愛くて子ども達が喜んでくれそうだ。
イベント開始数分前。
入口辺りにはすでにたくさんの人が並んでくれて、行列ができていた。